はじめに

 建設業の本格的なシステム開発は、概ね1990年代以降に大手・中堅ゼネコン各社が行った基幹システムの自社開発に始まるといえるだろう。それから10年が経ち、2000年代に入ると、急速な社会の変化とITの進化の中で、自社で開発した既存システムでは経営戦略のニーズに応えることが難しくなってきた。

 そうした中で、ITベンダー各社は、建設業向けERPパッケージソフト(統合基幹業務システム。ERPはEnterprise Resource Planningの略)の販売を強化してきた。他方、ゼネコン各社では、組織、業務の見直しを図り、大胆な業務改革に着手しはじめた。業務改革と併せて基幹システムの見直しを図るために「システム構築プロジェクト」を立ち上げて、ERPパッケージソフトを中核とする新たな「統合システム」を構築するようになった。

 ERPパッケージソフトは、自社開発システムに比べて短い開発期間で導入できる。実際に導入するとなると紆余曲折は付き物だが、それでも2年余で全面稼働が可能だ。そして、導入した新しいシステムを使いこなすために、各社は「情報基盤整備」と職員に対する「ITスキルアップ教育」を進めてきた。

統合システムにおける業務とシステムの関連の例(概要)(資料:筆者作成)
統合システムにおける業務とシステムの関連の例(概要)(資料:筆者作成)

自社開発ソフトからERPパッケージソフト(統合管理業務システム)へ

 1990年代の稼働開始以来、自社開発の基幹システムは、ゼネコン各社ともほぼ10年以上利用してきたと思われる。十年一昔というが、その当時の業務内容や社会のIT環境は、現在のそれとは大きく異なっていることは他の産業と同様である。

 90年代の各社のシステム環境といえば、スタンドアロンのパソコン数台を共同で利用していた時代だ。しかも、経理課、工事課等、日常業務処理に必要な内勤部署だけが、集中して基幹システムを活用しているだけだった。

 それ以外の内勤部署や建設現場(作業所)では、パソコンはほとんど配備・利用されず、必要な管理書類については、担当の内勤部署に入・出力を任せて、郵送で管理書類を受取り、現場管理を行っていた。建設現場では、請負金(契約金額)、工事原価、工事損益などの管理を膨大な紙の書類で行っていたのである。

 この当時から、システム導入の遅れや課題は、主に建設現場の管理業務に関してであった。建設現場の管理業務は、“事”があるたびに若干の改善がなされてきたものの、業務の見直しやそれに伴う体制の見直しを行うこともなかった。そのため、リアルタイムの処理ができず、内勤部署と建設現場それぞれで、様々な形で重複管理を行う状態が続いていた。

 しかし、やがて内勤部署で集中して処理する従来の基幹システムでは、十分に対応しきれなくなってきた。さらには、将来の職員減少(2007年問題:団塊の世代の大量退職問題)が現実味を帯びてきた。こうした状況に対応するために、現場を含む業務、組織体制の見直しがいよいよ必要となってきた。それには、建設現場とネットワークをつなぎ、現場でその都度伝票をコンピューターに入力処理する「発生源入力」という新しい発想の下でのERPパッケージソフトの導入が不可欠なものとなった。

 こうした背景から、ゼネコン各社によるERPパッケージソフトの採用が始まった。まずは社内で発足した「システム構築プロジェクト」が建設現場、内勤部署の業務を分析することからスタートし、次に社内の連携した情報共有システムの構想を提案、各部署の業務システム構築のため、それぞれの業務によるシステム概要設計を開始した。その後、詳細設計・プログラミング作成・総合テストを開始、旧システムからのデータ移行(コンバート)を進めた。並行して全職員への「ITスキルアップ」の啓もう・教育を行い、新たな「統合システム」が本格稼働を開始した。

 ERPパッケージソフトの本稼働については、導入した各社とも当初は万全とは言えなかった。ある程度のプログラムの不具合やバグは想定していたものの、現実はそれ以上のものだった。概ね安定稼働させるまでには約半年を要し、初めての決算処理に無事対応することができるまでは安心できない状況であった。