たった二人で名古屋と横浜でコラボレーション
スカイプのテレビ電話機能が大活躍



たった二人でチームを組み、参加したのはチーム「Archi-TEKLA」です。プラントエンジニアの大脇茂弘さんと、一級建築設計士の池田雅信のたった二人だけのチームです。チームリーダーの大脇さんは「池田さんとは以前から一緒に仕事をやりたいと思っていました。いい機会があったので申し込みました」と参加の動機を語ります。

このチームの特徴は、まず、大脇さんが構造設計を詳細に行った後、「IFC」というBIM用のデータ形式で池田さんに渡し、池田さんが階段や避難施設などを含めて意匠設計を行うという、通常の建築設計プロセスでは考えられない手順で設計を行ったことです。「構造部分は修正しないで済むように、意匠設計を行いました。これだけリアルに構造部材がわかると便利な半面、建物構造がしっかりわかっていないと難しい面もあります。IFCという形式は初めて使いました」と、池田さんは語ります。

しかも、二人は同じ場所で作業したのではなく、大脇さんは岐阜県大垣市内の自宅で、池田さんは横浜市内の事務所で、それぞれ分かれて作業していたのです。そこで威力を発揮したのが、インターネットでテレビ電話ができる「スカイプ」でした。池田さんは無線式のイヤホンマイクを常に装着し、パソコンの前を離れても事務所内なら大脇さんと会話できるようにしていました。冒頭の大脇さんの言葉も、スカイプによるテレビ電話で取材したものです。

審査員からは、「コアとシェルから構成される、3Dデジタル表現でしか扱えないアルゴリズミックデザインが特徴的」、「まず、構造設計からサステナブルな設計を目指し、後から意匠設計を行った例は非常に珍しい」、「スカイプによる遠隔地間のコラボレーションを実現した」などの評価を得ていました。

先に構造設計を行い、後で意匠設計を行うという常識を打ち破った設計プロセスで作られたプラン(画像:Archi-TEKLA)
名古屋と横浜という遠距離でのコラボレーションにはスカイプのテレビ電話が大活躍(左)。池田さんはBlue Tooth対応のヘッドセットを常時着用し、事務所内のどこでも大脇さんからの電話に出られるようになっている

このほか、福井コンピュータがこの夏、発売する日本製のBIM対応3次元CAD「Aegis(イージス=開発コードネーム)」を使って参加したチーム「Hokutosei」や、東北工業大学建築学科講師の許雷さんと学生からなるチーム「LEI」も48時間にわたる“耐久レース”を戦い抜きました。

Hokutoseiについて、審査員からは、「初の純国産BIMツールによるデータ連携を見せてくれた。意匠と設備の典型的なIFCによるBIMデータ連携を実現できた」、「FM・セキュリティについて、BIMと関係なさそうな2次元ベースのソフトウェアへのBIMデータ連携を見せてくれたのは、このチームの特徴」などの意見が出ていました。

また、学生チームとして唯一参加したLEIについては、「パッケージソフトウェアでは実現できていない、ライフサイクルCO2、年間負荷計算とBIMツールのデータ連携を見せてくれた」、「建材データベースを活用した環境負荷計算ツールは、BIMのメリットを際立たせている」といった評価を得ていました。

チーム「Hokutosei」は今年の夏、発売される純国産の3次元CAD「イージス」などを使って設計した(画像:Hokutosei
唯一の学生チーム、東北工業大学の「LEI」の作品(画像:LEI
 
若さを武器にプロにも負けず真剣勝負したLEIの作業風景(写真:LEI