土壇場で大きな設計変更を繰り返す
BIMならではの柔軟な対応でピンチを脱する


チーム「V-SPEC」は「デザイン・ビジュアライゼーション」、つまり設計の可視化を売り物にしました。参加したのはBIMの活用で先進的な取り組みを行っている建築設計事務所、ビム・アーキテクツの山際東さんとデザイン・ビジュアライゼーションの“職人”とも言える冨田和弘さんを中心とした9人のメンバーです。

このチームが目指しているのは、設計した建物を表現するのに、単なる写真そっくりのCGや映像を作るのではありません。建物の軸や、江戸から明治、現代に至るまちの歴史など目に見えない設計思想をわかりやすく、ビジュアルに表現することにこだわっています。

また、これまでのBIMによるオフィスビルなどの設計事例では、四角い建物が多い傾向にありましたが、今回のプロジェクトでは、「一つとして同じ平面図がない」というほど、高さ方向にも変化豊かな設計になっています。

開始から24時間が経過した後、山際さんは「昨日は30分くらいしか寝ていません。メンバーにはBIMの未経験者もいます。敷地の水路や公園の位置と、設計条件を満たすために、土壇場になって建物の設計を大幅に変えました」と語ります。

この言葉を裏付けるように、同チームが提出したCGパースは提出時間ごとに建物の形状や配置が大きく変化しています。こうした大きな変更があっても大丈夫なのは、BIMならではのことでしょう。2次元CADで設計していたのでは、とてもこうはいかないでしょう。

審査員からは、「マスターコンセプトを作る前の段階から3次元モデルを使って検討し、2次元CADでは困難なデザイン検討を実現した」などの評価を得ました。
再三の大規模な設計変更を繰り返して結実したデザイン(画像:V-SPEC)
意匠設計を担当した山際東さん 設計思想を可視化する「デザイン・ビジュアライゼーション」のベテラン、冨田和弘さんも参加


日常業務と両立しながら20人の社員が参加
建設可能なレベルの図面、施工性を実現


チーム「SKANK WORKS(スカンク・ワークス)」は、前田建設工業の建築設計部門の社員、約20人が、日常の設計業務をこなしながら参加しました。同社の3次元CAD活用は9年と歴史があり、意匠、構造、設備の設計をBIMで統合することは、以前から行ってきました。

今回は、唯一、ゼネコンからの参加チームなので施工面での特徴も出しています。「意匠、構造、設備の連携に加えて、今回は環境解析や3Dプリンターでの模型作成、そして4D、5Dによる施工シミュレーションにもチャレンジしてみたいです」と、前田建設工業の綱川隆司さんは参加の動機を語りました。

日常的な業務の延長とも言えますが、48時間という短時間で設計する極限状態に挑むことで課題をあぶり出そうというポジティブな姿勢が感じられました。施工部門を持つゼネコンならではの特徴を生かし、施工シミュレーションなども行いました。「今回の設計では、構造計算を行い、実際に建てられるレベルの図面も作成しています」と綱川さんは説明します。

同社ではチーム専用のブログも立ち上げ、時々刻々とチームの動きを発信していきました。

審査員からは、「すぐにも建てられるくらいの完成度の高いBIM」、「図面も実施設計レベルのものもあり、実際に造ってみたい気がする」、「意匠、構造、設備、プレゼンと、一つの組織でまとめたのは、世界的に珍しく、日本のBIMのひな形となるだろう」、といった意見も出ていました。

すぐにも建設できるほど完成度が高い設計内容。前田建設工業の9年間にわたる3次元CAD活用の成果を生かし、意匠、構造、設備のBIMでの統合だけでなく、施工シミュレーションまで行った(画像:SKANK WORKS)
設計の問題点を解決するためにミーティングが開かれる。精密な図面は実務で作成するのと同じクオリティだ
3Dプリンターで模型を作成する綱川さん 期間限定ブログを更新する広報の岩坂照之さん