6日連続で海が荒れない時期を予測


 えい航の速度を4ノットという低速にしたのは、精密機械であるサブステーションが傾いたり倒れたりするのを防ぐためだ。従って大しけの海を航行するような事態は絶対に避けなければならなかった。いったんえい航を始めてしまうと、喫水が異常に深いサブステーションが避難できる港はどこにもないので、ノンストップで福島沖まで行く必要があった。横浜港からの距離は約400kmだ。

 館技術部長によると、関東から東北にかけての太平洋が最も荒れにくい時期は6~7月だ。この間に波の高さ(有義波高)がJMUのドック付近から南本牧ふ頭沖までは0.5m以下、そこから先は2.5m以下となる連続した6日間を予測して、ドックからの出渠(しゅっきょ)とえい航を実施することにした。館技術部長は気象庁のほかに民間気象予報会社3社からデータを取り寄せ、分析したうえで自ら天候を予測。7月11日に出渠を、13日にえい航を開始するスケジュールを決定した。いったん決めた後の変更が2回もあり、熟慮の末の決断だった。

 サブステーションは予定よりやや早く、7月15日午前8時30分に福島沖に着いた。途中で天候が荒れることはなく、順調なえい航だったという。

 第三管区海上保安本部は航路哨戒船を出して見守り続けた。同本部の柏木専門官は、「何も事故が起こらなくて本当によかった。避難港なしで約400kmもえい航するなど通常は考えられない。東亜建設工業はよく引き受けたものだというのが率直な気持ちだ」とコメントした。

 JMUによると、福島沖での係留作業は吉田組(兵庫県姫路市)が担当し、8月28日に完了させる予定。風力発電設備の係留作業は、えい航を担当した清水建設・新日鉄住金エンジニアリングJVが同様の日程で進めている。

引き船4隻、警戒船4隻に加え、ほかの船舶にサブステーションの接近を知らせる情報提供船1隻も含む9隻で浦賀水道を航行した。えい航の日程の事前通知先は、官公庁や各地の漁業協同組合など計130カ所あまりに上ったという(写真:福島洋上風力コンソーシアム)
引き船4隻、警戒船4隻に加え、ほかの船舶にサブステーションの接近を知らせる情報提供船1隻も含む9隻で浦賀水道を航行した。えい航の日程の事前通知先は、官公庁や各地の漁業協同組合など計130カ所あまりに上ったという(写真:福島洋上風力コンソーシアム)

工事概要

  • 名称=洋上サブステーションえい航作業
  • 施工場所=横浜港南本牧ふ頭(横浜市)沖~浦賀水道航路外~千葉県富津市金谷沖~浮島(千葉県鋸南町)沖~野島崎(千葉県南房総市)沖~犬吠埼(千葉県銚子市)沖~小名浜(福島県いわき市)沖~福島沖
  • 発注者=ジャパンマリンユナイテッド
  • 施工者=東亜建設工業(現場責任者:小池弘幸)
  • 工期(出渠作業を含む)=2013年7月11日~15日
  • 工費=非公表