笹子トンネルの事故を受け、全国でトンネルの緊急点検が実施された。だが、「それだけで重大事故をなくすことはできない」と指摘するのは、昨年末に「実践・土木構造物メンテナンスの知恵」を出版した阿部允氏だ。氏は主に鋼橋の維持管理に携わるが、提唱する「ゾーニング」の考え方はトンネルにも共通する。財政難の時代、効率的に事故を防ぐ方法論だ。

阿部 允(あべ・まこと) 1946年北海道生まれ。72年に国鉄に入社。鉄道総合技術研究所勤務を経て、93年に(株)BMCの代表取締役に就任。2001年にNPO橋守支援センター理事長に就任。40年にわたり、鋼橋を中心とした土木構造物の維持管理に携わる。主な著書に「実践・土木のアセットマネジメント」(日経BP社)など
阿部 允(あべ・まこと) 1946年北海道生まれ。72年に国鉄に入社。鉄道総合技術研究所勤務を経て、93年に(株)BMCの代表取締役に就任。2001年にNPO橋守支援センター理事長に就任。40年にわたり、鋼橋を中心とした土木構造物の維持管理に携わる。主な著書に「実践・土木のアセットマネジメント」(日経BP社)など

──笹子トンネルの事故について、どのようにみていますか。

 私は主に橋の維持管理を手掛けているので、トンネル事故の原因やメカニズムについてコメントできる立場にはありません。ですが、原因が老朽化と言われるのには、実務者として少し気になる点があります。

 土木構造物は本来40~50年で老朽化などしません。老朽化していたとすると、それは「させた」と言うべきです。多くの事故は「古いもの」ではなく「悪いもの」で起こっています。完成してから150年が経過しても良好な状態で使われているものもあれば、20~30年で重大損傷に至ったものもあります。長持ちしている橋は、決して特別な材料を使ったりお金をかけたりしているのではなく、身近でこまめにメンテナンスしているだけなのです。

 笹子トンネルの事故は、老朽化と言うより、悪かった箇所で起こったのかもしれません。例えば、事故のあったアンカー部は、冗長性(リダンダンシー)のない構造だったとか付着強度が悪かったなど、ほかのものと異なる悪い要因があったのかもしれません。付着については施工性や接着剤の耐久性能も大きく影響します。予期せぬ浸水や施工不良など、想定外の影響で悪くなることも考えられます。しかし、そういうことに気が付いていれば、この種の事故は防げるかもしれません。

──事故後には緊急点検が実施され、今後も点検や調査を強化することが予想されます。

 事故が起こると、類似構造物の一斉検査が行われることがよくあります。それはそれで有効なのですが、事故の予防策として頼りきることには疑問もあります。

 事故後の対応姿勢としては評価できますが、あまりにも多大な時間と費用を要する恐れがあります。確かに、損傷はそれなりに減らすことができるでしょうが、事故はなくせないように思います。