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「全て点検」で事故はなくせない/阿部允BMC社長

重大な損傷に集中して予防保全する仕組みづくりを

2013/01/30

日経コンストラクション

笹子トンネルの事故を受け、全国でトンネルの緊急点検が実施された。だが、「それだけで重大事故をなくすことはできない」と指摘するのは、昨年末に「実践・土木構造物メンテナンスの知恵」を出版した阿部允氏だ。氏は主に鋼橋の維持管理に携わるが、提唱する「ゾーニング」の考え方はトンネルにも共通する。財政難の時代、効率的に事故を防ぐ方法論だ。

阿部 允(あべ・まこと) 1946年北海道生まれ。72年に国鉄に入社。鉄道総合技術研究所勤務を経て、93年に(株)BMCの代表取締役に就任。2001年にNPO橋守支援センター理事長に就任。40年にわたり、鋼橋を中心とした土木構造物の維持管理に携わる。主な著書に「実践・土木のアセットマネジメント」(日経BP社)など

──笹子トンネルの事故について、どのようにみていますか。

 私は主に橋の維持管理を手掛けているので、トンネル事故の原因やメカニズムについてコメントできる立場にはありません。ですが、原因が老朽化と言われるのには、実務者として少し気になる点があります。

 土木構造物は本来40~50年で老朽化などしません。老朽化していたとすると、それは「させた」と言うべきです。多くの事故は「古いもの」ではなく「悪いもの」で起こっています。完成してから150年が経過しても良好な状態で使われているものもあれば、20~30年で重大損傷に至ったものもあります。長持ちしている橋は、決して特別な材料を使ったりお金をかけたりしているのではなく、身近でこまめにメンテナンスしているだけなのです。

 笹子トンネルの事故は、老朽化と言うより、悪かった箇所で起こったのかもしれません。例えば、事故のあったアンカー部は、冗長性(リダンダンシー)のない構造だったとか付着強度が悪かったなど、ほかのものと異なる悪い要因があったのかもしれません。付着については施工性や接着剤の耐久性能も大きく影響します。予期せぬ浸水や施工不良など、想定外の影響で悪くなることも考えられます。しかし、そういうことに気が付いていれば、この種の事故は防げるかもしれません。

──事故後には緊急点検が実施され、今後も点検や調査を強化することが予想されます。

 事故が起こると、類似構造物の一斉検査が行われることがよくあります。それはそれで有効なのですが、事故の予防策として頼りきることには疑問もあります。

 事故後の対応姿勢としては評価できますが、あまりにも多大な時間と費用を要する恐れがあります。確かに、損傷はそれなりに減らすことができるでしょうが、事故はなくせないように思います。

米国で実績があるFCMの設定

 そこで私は、リスクカーブ上で事故への影響度の大小で区分(ゾーニング)し、影響度の高いゾーンに重点を置いた重大化防止の予防保全方法を示したいと思います。(下の図を参照)。

ゾーニングによる重大事故防止の概念
(資料:阿部允・BMC社長)

 事故後に行われる一斉検査は、ほとんどが「発生した損傷を見落とすな」と、まんべんなく行う目視検査に没頭します。しかし、多大なお金と時間をかけた割には、想定外の影響など、重大損傷に十分気配りできない可能性があります(同図(2))。さらに、目視や打音検査では、老朽化による性能(強度)低下の判断は難しいと言わざるを得ません。

 「更新」とか「設計基準を強化する」方法もあります(同図(3))。新しくはなりますが、初期欠陥など新たな悪いところをつくる懸念もあるし、これにも膨大なお金と時間がかかります。これまでの設計の合理化努力に逆行するかもしれません。お金がふんだんにある時代ならいざ知らず、現実的ではないでしょう。

 そこで考えられるのが、「ゾーニング」、すなわち影響度の度合いで対応を区分し、重大化に大きく影響するゾーンに重点を置いて集中的に対策する方法です(同図(4))。

 類似の方法は、米国のAASHTO(米国全州道路交通運輸行政官協会)の基準で取り入れられています。破壊すると全体に重大な影響を与える部材(FCM、重要破壊部材)を定め、FCMの検査には他の部材の2~5倍の費用をかけていいことになっています。無駄なところにお金をかけない代わりに「FCMには5倍金をかけてもいいからしっかり見て手当てしろ」と言っているわけです。

──どこが重大かの判断が難しくなりそうですね。

 「どこが心配か」「重大事故とは何か」を定義する必要があります。個別性が高く、マニュアルでは判断できません。インハウスエンジニアの責任で判断するか、外部の専門家が判断してインハウスエンジニアが承認するというやり方が必要です。

 インハウスエンジニアにとっては、こうした判断をせずに、全てを検査の責任にする方がある意味、楽かもしれません。重大さのレベルを設定するには責任が伴います。図でいえば、FCMの範囲を右に持っていくほどお金はかかりませんが、責任はより重くなるわけです。

 米国だけでなく、我が国の鉄道幹線の一部で取り組み始めた事例もあります。そこでは、専門的判断をできる人が重点着目箇所を抽出し、検査の強化や予防保全策としての冗長性を確保しようとしています。鉄道の場合、事故で止まれば迂回できないという脆弱性を、少しでも小さくしたいことが理由です。

阿部氏が執筆した「実践・土木構造物メンテナンスの知恵」(2012年12月25日発行、定価2625円、日経BP社)。維持管理の実務者向けに、技術や知識を生かすための「知恵」を伝授する
阿部氏が執筆した「実践・土木構造物メンテナンスの知恵」(2012年12月25日発行、定価2625円、日経BP社)。維持管理の実務者向けに、技術や知識を生かすための「知恵」を伝授する

──笹子トンネルの事故でも、迂回路が渋滞するなど大きな影響が出ました。

 高速道路も同様かもしれません。また、そこが壊れたら通れないという点では、橋だけでなくトンネルにも当てはまると思います。

──集中して検査すれば、重大な事故はなくなるのでしょうか。

 事故後に検査を強化する場合があると述べましたが、結局、起こってしまった損傷の有無を見分ける「事後保全」で、損傷発生をコントロールしているわけではありません。事故をなくすには、損傷の発生そのものをくい止める必要があります。

 それにはやはり「予防保全」しかありません。FCMに当たる部分を集中して予防保全することが、重大事故の防止につながると考えます。

 著書でも触れましたが、メンテナンスは身近にいる人がこまめにやるしかありません。地味な作業ですが、悪いものを見分け、それなりに気遣って適宜、重大化を防ぐ手を打っていく。それが一番いい方法だと思います。

聞き手:日経コンストラクション編集長、野中 賢日経コンストラクション