──どこが重大かの判断が難しくなりそうですね。
「どこが心配か」「重大事故とは何か」を定義する必要があります。個別性が高く、マニュアルでは判断できません。インハウスエンジニアの責任で判断するか、外部の専門家が判断してインハウスエンジニアが承認するというやり方が必要です。
インハウスエンジニアにとっては、こうした判断をせずに、全てを検査の責任にする方がある意味、楽かもしれません。重大さのレベルを設定するには責任が伴います。図でいえば、FCMの範囲を右に持っていくほどお金はかかりませんが、責任はより重くなるわけです。
米国だけでなく、我が国の鉄道幹線の一部で取り組み始めた事例もあります。そこでは、専門的判断をできる人が重点着目箇所を抽出し、検査の強化や予防保全策としての冗長性を確保しようとしています。鉄道の場合、事故で止まれば迂回できないという脆弱性を、少しでも小さくしたいことが理由です。
──笹子トンネルの事故でも、迂回路が渋滞するなど大きな影響が出ました。
高速道路も同様かもしれません。また、そこが壊れたら通れないという点では、橋だけでなくトンネルにも当てはまると思います。
──集中して検査すれば、重大な事故はなくなるのでしょうか。
事故後に検査を強化する場合があると述べましたが、結局、起こってしまった損傷の有無を見分ける「事後保全」で、損傷発生をコントロールしているわけではありません。事故をなくすには、損傷の発生そのものをくい止める必要があります。
それにはやはり「予防保全」しかありません。FCMに当たる部分を集中して予防保全することが、重大事故の防止につながると考えます。
著書でも触れましたが、メンテナンスは身近にいる人がこまめにやるしかありません。地味な作業ですが、悪いものを見分け、それなりに気遣って適宜、重大化を防ぐ手を打っていく。それが一番いい方法だと思います。