写真家・篠山紀信氏による写真集「現場紀信」(2012年12月25日発行、日経BP社刊)。写真の様々な表現手法を生み出し、その時代を代表する人物を撮り続けてきた篠山氏が独自の視点で「東京の今」「土木の今」を切り撮り、これまで誰も見たことがない現場の魅力をお伝えする1冊です。

ケンプラッツでは、「現場紀信」の撮影秘話を4回にわたってお伝えします。第1回は、自ら「新たな挑戦」というこの写真集について、篠山氏本人にその思いを語ってもらいました。


写真集「現場紀信」を手にポーズを撮る篠山紀信氏(写真:小川 智勝)
写真集「現場紀信」を手にポーズを撮る篠山紀信氏(写真:小川 智勝)

 日経コンストラクションから、「現場紀信」と「ATOKATA」という二つの写真集が生まれたのはすごいことだよね。まさに“ひょうたんから駒”。誰も、日経コンストラクションからこういう写真集が生まれるとは思わなかったでしょ。

 「現場紀信」を手に取った人は、何なのこの本は、どのジャンルなの?と思うんじゃないでしょうか。こんな写真集は、かつてなかった。

 この連載の話をもらったとき、「面白そうだな」という予感はありました。全く興味がないものだったら初めから「やらないよ」と言うし、もし始めてみてつまらなければ、1、2回撮って、もういいや、となったかもしれない。

 連載を始める前は、六本木ヒルズの建設現場などを撮影したことはあったけれど、現場にはあまり行ったことがなくて、意識もしていなかった。

 対象物がこれだけ巨大だと、いざ現場に行って、「参ったな」とか「どう撮っていいか分からない」なんてことになるかもしれないと思っていたが、実際に見たらそんなことはなかった。これは面白いなと。撮ったことがないものを撮るときは、初めは必ずそういう不安がある。

 でも、新しいものが出来るときはそんなものです。分かっていることをやってたって新しいものは生まれない。良く分からないけど面白いかもしれない、それならやってみようと。「うまくいかないかもしれない」というところから始めたのがいいんですよね。

 撮影は「一期一会」で、僕は基本的に下見はしない。出会ったそのときを一番大切にしている。だから、撮影のときにライティングに凝るわけでもなく、ありのままの現場を撮った。写真集を手に取った人が、それをどう見るか、どう感じるか。

 現場を見て“エロティシズム”を感じるのは変じゃないですかと言われることもあるけど、ものをつくり上げていく力、完成される美はエロスなんだよね。そういう視点で撮ったり書いたり。そういう本はこれまでなかったんじゃないでしょうか。(篠山紀信氏談)

次回以降は、「現場紀信」に収録した写真の一部を、篠山氏による撮影記と併せて掲載します。


■写真集「現場紀信」概要

 日経コンストラクションで2010年4月から始めた不定期連載コラム「現場紀信」をベースにした写真集で、本誌未掲載のカットを含めた13現場、約90点の写真と、篠山氏の書き下ろしによる10,000字を超える撮影記を収録。アートディレクターは奥村靫正氏(TSTJ Inc.)。

著者:篠山紀信
アートディレクター/ブックデザイナー:奥村靫正(TSTJ Inc.)
判型:B5変型判
ページ数:168ページ
ISBN:978-4-8222-6643-1
定価:2940円(税込み)
発行日:2012年12月25日
発行元:日経BP社
URL:http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/books/ncr/20121211/595229/