現場の方へと案内され、仮設の階段を地下に降りていく。少し進むと、躯体の配筋や建て込みの準備をしている場所に出た。地上から地盤を開削して造る地下構造物の現場にしては、妙にすっきりしている。

 普通の地下現場に見られる赤や緑に塗られた鉄骨の切り梁がない。深さ10mはある土留め壁が自立しているのだ。その土留め壁が垂直ではなく、斜めに立っているところが、この空間をある種、新鮮なものにしている。

鋼矢板の土留め壁が自立している (写真:勝田尚哉)
鋼矢板の土留め壁が自立している (写真:勝田尚哉)

 この現場は、東関東自動車道の谷津船橋インターチェンジ工事の一部。出口を新設する区間で、周辺交通の制約から、当初の計画よりも工期を短縮しなければならなくなった。

 そこで、施工者の大林組がこの「斜め土留め工法」を発注者の東日本高速道路会社に提案。設計変更が認められた。どのような技術なのだろうか。大林組の担当者に話を聞いた。

■従来工法
(切り梁支保工直立土留め)
従来工法(資料:大林組)
従来工法(資料:大林組)
■斜め土留め工法
 
斜め土留め工法(資料:大林組)
斜め土留め工法(資料:大林組)

「切り梁をなくしたい」から発想

大林組生産技術本部技術第一部の嶋田洋一技術第三課長(写真:勝田尚哉)
大林組生産技術本部技術第一部の嶋田洋一技術第三課長(写真:勝田尚哉)

 まず説明してくれたのは、大林組生産技術本部技術第一部の嶋田洋一技術第三課長。「2008年ごろにアイデアレベルから検討を始め、実験や解析、試験施工を重ねて実用に至った」と言う。

 土留めは、地下躯体を構築する際に地盤を掘削・支持するために用いる。一定の掘削深さを超えると、土留め壁を支える切り梁や腹起し、グラウンドアンカーなどの支保工が必要になる。支保工を組み立てたり、そのために掘削を中断したり、支保工を避けてコンクリートを打ち継いだりといった手間や時間を要する。

 支保工をなくして、土留め壁を自立させることはできないか──。この単純な思いが、開発の原点だ。

 検討のプロセスは後述するが、土質の教科書にある土圧算定式に立ち返って、アイデアを練った。そして、土留め壁を斜めに傾ければ、受ける土圧を低減できて自立させられると考えた。