写真家の篠山紀信氏が東日本大震災の被災地に出向き、最初に撮影したのが5月1日〜3日。「初めて津波の被災地を見たときは言葉がなかった。打ちのめされた。どれをどう撮ればいいか分からなかった」と打ち明ける。被災地の光景が篠山氏に与えた衝撃は大きく、様々な視点から膨大な量の写真を撮影した。

日経コンストラクション2011年11月14日号「現場紀信」から (写真:篠山 紀信)
日経コンストラクション2011年11月14日号「現場紀信」から (写真:篠山 紀信)

 それが、5月27日〜29日の2回目の現地撮影時にはすっかり視点が定まっていた。津波でなぎ倒され赤く変色した松林、津波のときと違って静かにたたずむ海など、自然と向き合うことで得られた境地だ。「自然の破壊する力を畏怖し、畏敬の念を持って見るべきではないかという気持ちになったら、ものが見えてきた」(篠山氏)。

日経コンストラクション2011年11月14日号「現場紀信」から (写真:篠山 紀信)
日経コンストラクション2011年11月14日号「現場紀信」から (写真:篠山 紀信)

 もっとも、篠山氏は1回目の現地撮影の初日から、誰も撮らないような破壊された自然に目を向け、盛んにシャッターを切っていた。その点では、直感で得たものを静かに発酵させてたどり着いた境地が、猛威をふるった自然を粛然と受け入れることだったと言える。

 日経BP社から11月21日に発行する写真集「ATOKATA(あとかた)」は、被災地と真摯に向き合った篠山氏の新境地。とても静かな写真集だ。

 日経コンストラクション11月14日号の「現場紀信」には、写真集「ATOKATA」に収録した写真の一部を掲載している。