2004年10月23日午後5時56分。新潟県中越地方の山間部直下で発生したマグニチュード6.8の地震と,その後の度重なる大きな余震によって,山間部のいたる個所で自然斜面や道路の盛り土が崩壊。平地の都市部でも,道路の下の埋め戻し土が沈下して道路が陥没した。

 斜面崩壊の被害が大きかったのは信濃川の右岸。地層の断面を見ると,泥岩と砂岩の互層になっている個所が多く,風化が進んでいることもうかがえた。「すべり面の深い崩壊を起こした場所のすぐそばに,過去の地すべりの痕跡が見られるところもあった。もともと地すべりが多かった地域であることは間違いないようだ」。地震の発生直後に(社)土木学会の調査団の一員として現地調査を行った中央大学土木工学科の國生剛治教授はこう指摘する。

 同県山古志村などを流れる芋川流域では,崩れた土砂が川の水をせき止めてできた「天然ダム」が5カ所で形成。民家などが水没した。道路が寸断して,山間部の住民が孤立するなどの問題も生じた。

山岳トンネルの路盤が隆起

 上越新幹線の魚沼トンネルなどでは,路盤の浮き上がりや覆工の崩落といった大きな被害が発生した。

 長さ8625mの魚沼トンネルは1976年に完成。木矢板と鋼製の支保工を支保材とする矢板工法で建設していた。同トンネルでは坑内の3カ所で,路盤コンクリートが垂直方向に最大で20~30cm,長さ50~100mにわたって浮き上がった。南坑口から約2.4kmの地点では路盤の浮き上がりに加えて,厚さ50cmの覆工コンクリートが約6m×約3mにわたって崩落。支保工や矢板がむき出しになった。山岳トンネルが路盤の隆起を伴う被害を受けるのは珍しい。

 高架橋では,上越新幹線の第一和南津高架橋と第三和南津高架橋の二つのラーメン構造物などが被害を受けた。両高架橋は3径間連続の1層のラーメン形式で,桁と柱が一体になっている。第一和南津高架橋には長さの短い端部の柱のうち3本にせん断破壊が生じた。第三和南津高架橋も端部の柱の1本がせん断破壊した。

 JR東日本によると,第一和南津高架橋の柱は,2005年に耐震補強工事をする予定が組まれていた。同社は三陸南地震をきっかけに全線で耐震診断を実施。その結果,「せん断破壊先行型」と判明した高架橋を2008年度までに補強する計画だった。工事が2005年に組まれていたのは,耐震補強をすべき高架橋の中でも危険性が高いと同社が判断していたからだ。

 一方,第三和南津高架橋は耐震診断の結果,「曲げ破壊先行型」だったので,補強の対象外とされた。土木学会の新潟県中越地震第二次調査団でコンクリート構造物の調査を担当している東京大学大学院社会基盤学専攻の前川宏一教授は,「曲げ破壊先行型かせん断破壊先行型かのグレーゾーンだった。せん断ひび割れ程度は生じる恐れはあったが,ここまでのせん断破壊は想定外だ」と首をかしげる。

(注)市町村名は記事掲載時点のもの

新潟県長岡市内の信濃川右岸で起きた大規模な斜面崩壊。親子3人が乗ったワゴン車がのみ込まれた。厚い風化岩盤が崩れたとみられる(写真:新潟県)
新潟県長岡市内の信濃川右岸で起きた大規模な斜面崩壊。親子3人が乗ったワゴン車がのみ込まれた。厚い風化岩盤が崩れたとみられる(写真:新潟県)

新潟県山古志村の東竹沢地区にできた天然ダム。青い屋根の建物の前に見える白い排水パイプで,ダム湖の水位を下げている(写真:国土交通省)
新潟県山古志村の東竹沢地区にできた天然ダム。青い屋根の建物の前に見える白い排水パイプで,ダム湖の水位を下げている(写真:国土交通省)

魚沼トンネルの被害状況。路盤が浮き上がり,覆工コンクリートが崩落した(写真:JR東日本)
魚沼トンネルの被害状況。路盤が浮き上がり,覆工コンクリートが崩落した(写真:JR東日本)

せん断破壊した第一和南津高架橋の柱。柱の長さは,地中に埋まっている部分を含めて約4.9mある
せん断破壊した第一和南津高架橋の柱。柱の長さは,地中に埋まっている部分を含めて約4.9mある