日本全国に散らばる土砂災害警戒区域は約40万カ所、土砂災害特別警戒区域は約24万カ所(いずれも2015年3月末時点)。日本で発生する様々な災害のなかでも、土砂災害は頻度が高く、身近な災害と言えるでしょう。

 昨年8月には広島市内で、局地的な豪雨による大規模な土砂災害が発生。犠牲者は70人以上に及び、土砂災害防止法が改正されるきっかけとなりました。この災害は豪雨のさなかに発生したので、防げたか防げなかったかは別にして、因果関係ははっきりしていると言えます。

 一方、直接の原因がはっきりしない土砂災害、言い換えれば「意外な土砂災害」も、国内では多発しています。例えば今年1月に発生した、浜松市内の国道473号・原田橋の崩落。直前に小規模な落石がありましたが、豪雨に見舞われたわけでもなく、これほどまでの大規模崩落は専門家でも予見できませんでした。

 こうした意外な土砂災害が、ここ1~2年、立て続けに起こっています。それらのメカニズムを明らかにすべく、日経コンストラクション7月27日号では、特集「崩れる土砂、崩れる定石」を企画しました。


日経コンストラクション2015年7月27日号特集「崩れる土砂、崩れる定石」から
日経コンストラクション2015年7月27日号特集「崩れる土砂、崩れる定石」から

 意外な土砂災害の一例が、昨年11月に発生した北海道洞爺湖町での伏見橋崩落事故です。人的被害がなかったこともあって大きくは報道されませんでしたが、衝撃的な事故でした。前夜まで通行できていた橋長約50mの橋の橋台が、一夜にして崩れ落ちたのです。

 崩れた橋台は杭のない直接基礎でした。調査に当たった専門家は当初、崖地に直接基礎で橋台が築かれていたことから、設計ミスではないかと疑いました。しかし調査を進めていくと、実は橋が完成した1998年当時、橋台のあった位置は崖ではなかったことが分かりました。橋が架かる谷の下方から徐々に浸食と崩壊が進み、崩落時には崖になっていたのです。こうした「浸食崩壊」の兆候は2012年の点検時にも見られず、その後の道路パトロールでも判明しませんでした。こうした事故が今後、交通量の多い橋で発生しないとは限りません。

 一般の新聞などでは、報道の量は被害の大きさに左右される側面があります。人命を守ることが土木の大きな使命ですから、大きな被害が出た災害を検証することは必要です。ただ、「次なる災害」を防ぐのに、それだけでは十分ではありません。日経コンストラクションは専門誌として、災害のメカニズムや教訓といった点にも着目し、報道していきたいと考えています。