地震、津波、豪雨、土砂災害など、様々な自然災害に襲われる日本。要対策箇所の多さに対して、財源は限られています。当然、優先順位を付けたうえで対策を進めることになります。

 優先度が高いのは、災害が発生しやすく、発生すると被害が甚大になりやすい、いわば「被害ポテンシャルが高い場所」です。豪雨災害であれば人口が密集する市街地、津波災害なら逃げ場のない海岸線沿いの集落・・・。

 こうした場所は土地利用や地形の制約が大きいので、工事の技術的難易度が高くなりがちです。例えば、市街地における豪雨対策の場合、低い土地に集まる内水を排出する管きょが必要になりますが、施工スペースが限られ、かつ十分な勾配を確保できない場合、どんな対策を施せばいいのか。

 日経コンストラクションは毎年5月下旬発行の号で、土木技術に関連する特集記事を掲載しています。今年は5月25日号で、難条件下で防災事業を成し遂げるためのアイデアを集めた特集、「いかにして『防災の難題』を解くか」を企画しました。


日経コンストラクション2015年5月25日号特集「いかにして『防災の難題』を解くか」から
日経コンストラクション2015年5月25日号特集「いかにして『防災の難題』を解くか」から

 先述した市街地の豪雨対策は、特集の冒頭で取り上げた神戸市の「中突堤ポンプ場放流渠(きょ)建設工事」の例です。ふくそうした埋設物をかわしながら内径3.5mの雨水放流管となるトンネルを築くことになり、坑口付近で三次元の急カーブの施工が避けられなくなりました。

 施工者である大成建設JVは、この複雑な形状の管路を築くために知恵を絞りました。出てきた結論は、地盤を先に掘り下げて空間をつくり、「空中」でセグメントを組み立ててから埋め戻すというものでした。

 なるほど、という発想ですが、実現には多くの課題の解決が必要でした。シールド機によるセグメントの組み立てと異なり、地盤の反力は利用できず、埋め戻す際には浮力に対抗しなければなりません。こうした難点を一つひとつ潰していき、結果的に発注者が許容する誤差の半分の誤差に収め、工事を完成させました。

 難条件の克服は、いわば土木の宿命でもあります。特集記事ではこのほかにも、困難な防災事業を成功に導いた様々な「解法」を紹介しました。記事をお読みいただき、防災事業に限らず、あらゆる工事のヒントにしてもらえれば幸いです。