技術継承と産業育成が狙い

 市が水道事業で海外展開を図る狙いは、国際協力だけではない。例えば、技術力の維持。市では人口減少と節水技術の進展が重なり、給水量は減っていく。事業収入が減れば、組織の現状維持は難しい。組織が縮小すれば、技術継承は困難になる。

 加えて、国内では新規の施設整備が少なく、そうした仕事の経験を積みにくい。幅広い業務を担える海外事業を経験すれば、水道事業全体に対する知見が深まる。海外事業で仕事の量と質を確保して、技術力を保とうという算段だ。

 産業振興も重要な狙いだ。プノンペン水道公社やカンボジアの他都市での技術支援を通して、北九州市は同国内に人脈や信用を築いてきた。この信頼やネットワークなどを、メーカーをはじめとした日本企業にも活用してもらい、海外での水ビジネスの展開を後押ししようとしている。

 日経BP社は10月22日、将来のインフラ市場の動向を豊富な事例に基づいて分析・解説した書籍「2025年の巨大市場/インフラ老朽化が全産業のチャンスに変わる」を発行した。

 同書では、本記事で紹介した北九州市による水ビジネスのほか、下水道の老朽管路を改修する工法を海外で幅広く展開している企業をはじめ、維持管理の技術で海外進出を果たしている複数の事例を紹介している。