今年3月、日本最南端の沖ノ鳥島沿岸部で発生した桟橋の転覆事故は、7人が死亡する大惨事となりました。2012年以降は毎年、死者が5人以上出る建設事故が発生しています。

 近年の建設業の労働災害は、長期的に見れば減少傾向にあります。建設業労働災害防止協会の資料によれば、1989年(平成元年)には死傷者6万3847人、死亡者1017人を数えていたのが、2013年にはそれぞれ1万7189人、342人と激減。建設投資が減少した影響もありますが、ハード・ソフトの様々な対策や働く人の安全意識の向上が、労災の減少に結び付いたことは疑いありません。

 しかし、冒頭で述べたとおり、近年は重大災害が立て続けに発生しています。さらに、今年上半期の労働災害の発生状況を見ると、死傷災害、死亡災害ともに、昨年を上回るペースで推移しています。厚生労働省が各業界団体に労災防止活動のさらなる徹底に関する緊急要請を発するなど、危機感が高まっています。

 こうしたタイミングを捉え、日経コンストラクションでは9月8日号で、特集「重大事故が止まらない」を企画しました。


日経コンストラクション2014年9月8日号特集「重大事故が止まらない」から
日経コンストラクション2014年9月8日号特集「重大事故が止まらない」から

 事故を防ぐキーワードとして最近、よく耳にするのが、「レジリエンス・エンジニアリング」。レジリエンスとは「弾力がある」、少し意訳すると「しなやかな」といった意味です。労働安全に関して言えば、単に無事故の状態を「安全」と捉えるのではなく、一人ひとりが自ら考えて動くことで現場がつつがなく回る状態を「安全」と捉える、ということだそうです。

 例えば、地震などの災害が発生したとき自分がどのように行動するかを考え、ディスカッションする。そうした訓練によって危険感受性が高まり、マニュアルに書かれていない「想定外」の事態への対処にもつながるわけです。

 「レジリエンス」という単語は一種のはやり言葉のようになっていますが、「自ら考えて行動する」ことそのものは、土木の世界では昔から重視されてきました。「自ら考えて行動する」という土木の基本に立ち戻ることが、想定外の事故を防ぐための第一歩です。