調査官の視点でミスの芽を摘み取る

 会計検査院は2012年度の会計決算報告をまとめ、2013年11月7日に政府に提出した。不当事項などに指摘された土木関連の事案を見ると、相変わらず単純なミスや見落としに起因するケースが多い。主なものを次ページ以降で紹介する。

 「設計や施工で準拠した基準書の指示を正しく理解していなかった」、「供用時の状況を正確に把握できていなかった」など、ほとんどのケースに共通するのが、こうした基本的なミスや見落としだ。事業の上流過程で生じた不具合が設計後の照査や成果物の受領時、さらには施工時などでも見逃され、そのまま構造物が完成したという例を散見できる。

分業制の定着で技術力が低下

 他方、不当事項として指摘された事案数を省庁別に見ると、国土交通省の案件は34件。11年度に比べて4件少ないが、原因の本質は変わっていない。この種のトラブルを完全に撲滅できない実態がうかがえる。

■ 会計検査院が不当事項と指摘した国土交通省関連の事案
会計検査院が不当事項と指摘した国土交通省関連の事案
会計検査院の資料をもとに日経コンストラクションが作成。カッコ内は全体件数に対する不当事項の割合

 会計検査院第三局監理官付の岩田浩茂総括副長は、この種のミスや見落としが発生する背景について、二つの点を指摘する。

 一つは国や自治体といった事業主体の職員の技術力低下だ。「設計や施工の分業が定着したことに加えて、例えば施工監理なども外部に委託するケースが増えてきた。さらに、住民対応などの業務の増加、人手不足も重なり、職員が技術的な実務を学びにくい環境にある」(岩田総括副長)。会計検査院の調査官が実地検査などで不具合の所在を指摘しても、その理由を理解できない技術系職員も目立ってきたという。

 ミスや見落としを誘発する背景として、もう一つは、組織間の連携の希薄化。かつては、本省から各地方整備局へのトップダウンや近隣の自治体同士による水平展開など、不具合などの情報が速やかに伝わる情報共有のネットワークがあったという。「現在はそうしたつながりが弱まり、近隣自治体がそれぞれ同じような不具合を指摘されるケースも多くなった」(岩田総括副長)。  岩田総括副長によれば、会計検査における調査官の視点は、あくまでも「構造物の基本性能・機能」や「ユーザーの安心・安全」に立脚する。形式的に違反を指摘しているのではないという。  ベテラン調査官が経験で培った「目」や「勘」は、不具合を見つけるセンサーだ。例えば、次ページで紹介するボックスカルバートの配筋ミスを指摘した担当調査官は、カルバート類の検査に長年力を入れてきたキャリアを持つという。紹介する事例でも、図面を見て「通常なら多いはずの箇所の鉄筋量が少ない」と直感的に気付いたのが端緒だった。

「重点チェック」がカギ

 調査官のチェックは「万遍なく網羅的に」ではなく、「ポイントになる箇所を重点的に」が基本。積算関連なら「金額が大きい箇所」、設計関連なら「主鉄筋」や「杭」といった不具合が構造物の致命傷になり得る箇所に注目するという。数多い対象を効率的・効果的に見るための手法だ。

 こうした調査官の視点は、発注者や設計者、施工者にとっても参考になるはずだ。設計や照査、施工といった各段階でこの種のミスを摘み取るためには、一人ひとりの技術者が目や勘をもっと研ぎ澄まして、互いに連携することに尽きる。

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