運用中のコンクリートダムの本体を削孔して、洪水調節容量を1.3倍に増やす。削孔長は約60mに達し、その位置は洪水時最高水位よりも65m低い。国内で前例のない規模のダム改造だ。
1966年に鹿児島県内に完成した鶴田ダムで、放流管を3本増設する改造工事が佳境を迎えている。2本の発電管の付け替えも合わせると、重力式コンクリートダムの堤体に開ける穴は5本に及ぶ。
増設する放流管ののみ口は、堤体天端付近の洪水時最高水位の約65m下に位置し、堤体内の削孔長さは約60mに達する。増設管としては、日本で一番深くて長い。過去に例がない大掛かりな堤体の穴あけ工事だ。堤体の下流面から自由断面掘削機を用いて、6~6.4m角の矩形断面を毎時3m3のペースで削るように掘り進めている。
事業を進める国土交通省川内川河川事務所工事課の川元壊二課長は、次のように説明する。「放流管を既存管の位置よりも最大で約25m下に増設して、洪水調節容量を現在の約1.3倍に当たる9800万m3まで増やす。洪水期に現在よりも水位を低下させるので、発電能力を確保するために発電管も付け替える」。
鶴田ダムの建つ川内川は、2006年7月の豪雨で氾濫し、流域全体に甚大な浸水被害を与えた。
この災害を受けて、国は川内川に河川激甚災害対策特別緊急事業(激特事業)を採択。06年度から11年度にかけて、事業費375億円を投じて、河道掘削や築堤、分水路などを整備した。
激特事業によって、06年と同規模の洪水が発生しても、外水氾濫は防げる見通しだ。ただ、激特事業で整備したインフラだけでは、計画高水位を上回る。国交省はダムの改造によって、ダム下流の宮之城地区で0.5~1m程度の水位低下を見込む。併せて、上流の河川改修で増加する流入量にも対応させる。ダム改造に要する事業費は711億円に上る。