東日本大震災の被災地では、短期間での復興が求められているなか、人件費の高騰や資材不足が問題となっています。質の劣る材料を使い、少ない人数で時間をかけずに施工するとすれば、完成した構造物の品質は確保できるのか――。日経コンストラクション11月11日号の特集「品質の盲点」は、こうした問題意識からスタートしました。


日経コンストラクション2013年11月11日号特集「品質の盲点」から
日経コンストラクション2013年11月11日号特集「品質の盲点」から

 特集の冒頭では、被災地に限らず、品質にトラブルが生じたケースをいくつか取り上げました。いずれも、手順どおりにしっかりと施工したり検査したりしたはずなのに、構造物に思いもよらない品質トラブルが起こったという実例です。

 土木技術者の方々と接していると、みな真面目で、仕事に対してプライドを持っていることを感じます。ミスの隠蔽や手抜きに手を染める人がいないとは言えませんが、ほとんどの人は日々、自分が手掛ける構造物の設計や施工に責任を持って当たっていることでしょう。しかし、品質トラブルはそうしたところでも発生しているのです。

 背景にあるのは、前例主義やマニュアル依存の体質かもしれません。

 例えば構造物の点検業務。熟練の土木技術者が減りつつあるなか、大量の構造物を短時間で点検するには、手慣れていない人にも力を借りる必要が出てきます。一定の水準で作業をこなしていくのに、マニュアルの整備などで手順を標準化するのは有効です。しかし、手順を守ることが目的化してしまい、本来の作業の意味や目的を見失えば、見落としは増えていくでしょう。

 「『マニュアル化の弊害』と切り捨ててしまうこと自体が『マニュアル化』されている証拠だ」、と笑われるかもしれませんが、やはり熟練技術者が減っている今、敢えて警鐘を鳴らしておかなければいけないと考えています。品質確保に限ったことではありませんが、若い人や慣れていない人に本質を理解させることこそ、ベテランの重要な仕事なのではないでしょうか。