昨年末の政権交代以降、日経コンストラクションでは、安倍政権の重要なキーワードである「国土強靱化」について報じてきました。これまでは、予算や政策面での話題を中心に取り上げてきましたが、5月27日号では特集「技術が導く理想の『強靱化』」を企画し、国土強靱化を成し遂げるための技術にスポットを当てました。


日経コンストラクション2013年5月27日号特集「技術が導く理想の『強靱化』」から
日経コンストラクション2013年5月27日号特集「技術が導く理想の『強靱化』」から

 そもそも国土を強くすることが公共事業の大きな目的ですから、多くの土木技術は強靱化に資するものだと言えるでしょう。特集記事ではそうした数多くの技術のなかから、「強靱化プラスアルファ」を実現できるものに絞って取り上げました。強靱化を実現しながら、景観を破壊しない、ほかの用途にも有用である、といった技術です。

 防災・減災やインフラ老朽化対策の事業が最優先で求められていることは間違いありません。しかし、単にその目的を達成するためのインフラでは、住民の理解を得られない恐れがあります。例えば、津波被災地に新たに建設される防潮堤について、景観の阻害や生態系の破壊といった面で懸念の声も上がっています。「強靱化するから」といって全ての事業が受け入れられるわけではないという点に、注意を払っておく必要があります。

 さて、特集記事は、宅地の液状化対策技術として、地中に丸太を打設する工法を取り上げました。丸太を打ち込むことで地盤を締め固め、地震時の液状化を防ぐ技術です。第一義的には液状化対策ですが、木材を地中に埋め込むことによる炭素固定効果が大きいことが特徴です。これは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の削減に直結します。

 土木工事では一般的に、建設機械やダンプトラックなどを多用することから、大量の二酸化炭素を排出します。しかし、丸太打設工法では、地中に固定できる炭素の量が重機などの使用による排出量を大幅に上回るので、丸太を打ち込めば打ち込むほど二酸化炭素を削減できるというわけです。

 工事での二酸化炭素排出量を抑制するのは重要ですが、あくまでも「マイナスを減らす」ことにすぎません。一方で丸太の打設は、「マイナスをプラスに変える」技術だと言えます。コストや材料供給などの面で改良の余地はありそうですが、こうした付加価値の追求が、公共事業の価値を高めるために必要な視点ではないでしょうか。