コスト競争が厳しく、構造物の合理化設計が進んでいるなかで、構造物や建設現場の安全性は損なわれていないのか――。日経コンストラクション10月22日号の特集「行き過ぎた合理化」は、こうした素朴な疑問からスタートしました。

 きっかけとなったのは、今年2月に起こった岡山県倉敷市でのシールドトンネル事故でした。事故後に国土交通省が立ち上げたシールドトンネル施工技術安全向上協議会が公表した中間報告では、事故を誘発した要因として、「コスト削減や工期短縮を優先したと考えられる設計」が挙がっています。

 事故のあったシールドトンネルでは、過去の同種工事の実績に比べて、セグメント外径に対してセグメントの厚さが薄く、セグメントの厚さに対してセグメントの幅が広かった点が指摘されています。シールドトンネルの専門家によれば、セグメントは安全率を大きめに見込んで設計される場合が多く、裏を返せば合理化のターゲットになりやすい部材だといいます。合理化への努力はもちろん必要ですが、安全が損なわれるのであれば、それは「行き過ぎた合理化」と言わざるを得ません。

 一方の、現場の安全管理についてはどうでしょうか。コスト競争が厳しいからといって、安全をおろそかにすることはまず考えられません。しかし、コスト競争による受注額の低下が、安全に悪影響を及ぼす恐れがあると指摘する識者は少なくありませんでした。「現場に配置される人数が減り、監視や指揮がおろそかになりかねない」「小規模の会社では安全教育にコストをかけられない」。こうした現状は、現場の安全性を損なう恐れをはらんでいます。

 コスト削減が事故の直接の原因になることは、むしろレアケースかも知れません。しかし、昔に比べて人・モノ・カネの余裕はなくなってきています。安全に対する余裕もその分、確実に小さくなっていると言えるでしょう。かつては「余裕」の部分で吸収できていたちょっとしたアクシデントが、今では大惨事の引き金になりかねないということを、改めて意識しておきたいものです。