劣化が進む前にこまめに補修するのが予防保全。一方、対症療法的に劣化箇所を補修するのが従来の事後保全。予防保全のほうが事後保全よりも構造物を長持ちさせて更新時期を先送りすることができ、大掛かりな補修も抑えられるのでコスト削減につながるーー。一般にはこのように考えられ、インフラの維持・補修は事後保全から予防保全へのシフトが進められています。

 都道府県と政令市を対象にした日経コンストラクションの調査からも、予防保全へのシフトによって大きなコスト削減を見込んでいることが分かります。橋梁を対象に長寿命化修繕計画を実施する場合と実施しない場合の年間平均補修費を比較したところ、修繕計画の実施によって50%以上のコスト削減を見込む自治体が半数以上に上りました。

日経コンストラクション8月27日号特集「予防保全は甘くない」から
日経コンストラクション8月27日号特集「予防保全は甘くない」から

 ただし、予防保全には気を付けなければならないことがあります。長寿命化修繕計画の期間中の年間平均補修費が、計画開始前年度の補修費を上回る傾向にあるのです。日経コンストラクションの調査では、修繕計画に基づく橋梁の年間平均補修費が計画開始前年度の補修費の2倍以上に膨らんだ自治体が半数近くを占めました。

 この点だけに着目すると、あたかも予防保全は事後保全より補修費が高くつくように見えますが、これは近い将来にそれだけ多くの橋梁が老朽化し、たとえ予防保全で総コストを削減したとしても、相当なコストがかかることを意味しています。加えて、従来の対症療法的な事後保全によって適切な健全性を確保できなかったツケを、予防保全の初期段階で払わざるを得ないことを表しています。

 年間補修費が2倍以上に増えるとなると、財政の厳しい自治体では予算上の手当てが困難になります。例えば宮崎県では、更新費を含めた橋梁の維持管理費に、事後保全なら今後100年間で7500億円かかるところを、予防保全によって2200億円に減らせると試算していますが、それでも当初の10年間は1年当たり27億円が必要になります。架け替え費は別として橋梁補修費がこれまで年間7億円程度だった宮崎県からすれば、大きな負担です。結局、宮崎県では重要度の低い橋梁の予防保全を当面は見送ることにしました。全橋梁を対象にした予防保全は断念せざるを得なかったのです。

 予防保全に取り組む自治体は、現実的な対応を模索しています。日経コンストラクション8月27日号の特集「予防保全は甘くない」では、独自調査の結果も示しながら、橋梁の予防保全に取り組み始めた自治体の現実を浮き彫りにしました。ぜひご一読ください。