インフラの老朽化によって維持管理・更新費の負担が増大するという問題が叫ばれています。国土交通省がこの問題を説明するときによく使う一つの試算があります。同省が所管する道路、港湾、空港、公共賃貸住宅、下水道、都市公園、治水、海岸を対象に、今後の維持管理・更新費を推計したものです。

従来どおりにインフラの維持管理・更新をした場合の費用の推計(資料:国土交通省「2009年度国土交通白書」)
従来どおりにインフラの維持管理・更新をした場合の費用の推計(資料:国土交通省「2009年度国土交通白書」)

 対象分野への投資総額が2010年度の水準で推移し、維持管理・更新に従来どおりの費用の支出を継続すると仮定すると、37年度には維持管理・更新費が投資総額を上回ります。試算上は、25年後には新設に予算を回せなくなるというものです。

 仮に、先進的に予防保全に取り組む自治体の水準で他自治体も維持管理・更新を実施したとすれば、維持管理・更新費が投資総額を超えるのは47年度となります。これらの試算は、予防保全の重要性を示す根拠として使われています。

 ただし、予防保全だけで維持管理・更新の問題は解決しません。人口の減少も見据える必要があります。国土交通省が11年2月に発表した「国土の長期展望」中間とりまとめでは、全国の居住地を1kmメッシュで細分化した場合の人口の増減を推計しています。それによると、2050年の人口が05年の半分以下に減少する居住地が6割以上に上ります。人が居住しなくなる地域だけでも2割を占めるという推計です。予防保全によってインフラを長寿命化しても、人が住まなくなって使われないようでは、元も子もありません。インフラの維持管理・更新の問題は少なくとも、居住地を集約するコンパクトシティーやインフラのリストラを同時に考えていく必要があるのです。

2050年の人口増減状況の推計(資料:国土交通省「『国土の長期展望』中間とりまとめ」)
2050年の人口増減状況の推計(資料:国土交通省「『国土の長期展望』中間とりまとめ」)

 そういう意味では、財政の破綻と急激な人口減少に直面した北海道夕張市の危機的状況は、単なる特殊な例だと片付けられない面があります。同市の財政再生計画書によれば、10年度に30億円近くあった建設事業費が16年度には1億円以下に減少し、25年度からゼロになる計画になっています。規模の小さい自治体ほどインフラの更新費が重荷になるので、新設に回せる予算のなくなる時期が国交省の試算より早くなったとしても何の不思議もありません。夕張市ではいま、小中学校や市営住宅などを集約するコンパクトシティーに取り組んでいます。

 日経コンストラクション8月13日号の特集はインフラの老朽化をにらみ、「新設ゼロ時代の社会資本」と題して、これからの社会資本の在り方を考えました。ぜひご一読ください。