東日本大震災はハード対策による防災の限界を改めて我々に突き付けました。

 情報やサポートが行き届かずに大津波から逃げ遅れたり、大津波から一命を取り留めながら救援が遅れて窮地に陥ったり、避難先で十分な支援を受けられずに被災者が衰弱したり……。大地震や大津波に対してハード対策は一定の役割を果たしたことが明らかになりつつありますが、残念ながらソフト対策がうまく機能せずに災害の拡大を止めることはできませんでした。地震・津波災害に原発事故が追い打ちをかけて、災害をいっそう深刻にしたのも確かです。

 災害が多くの県にまたがる超広域災害への体制は整っておらず、災害対策を担う自治体自身が壊滅的な被害を受けた場合に災害対応が機能不全に陥るという問題も露呈しました。地震・津波災害に原発事故が重なるような複合的な災害への備えも不十分でした。

 ではどうすべきか。ハード対策に限界があることは明らかです。ハード対策の見直しも必要でしょうが、それ以上にソフト対策の強化を進める必要があります。日経コンストラクション4月25日号の「追跡 東日本大震災」第2弾は、「人命を守る重責」と題して、人命を救い災害を抑制するために何をすべきかをソフト対策を中心に考えました。

 土木が市民の安全・安心を担保するものであるならば、土木はソフト対策にもっと主導的に取り組まなければなりません。今号では、大津波に襲われた岩手県釜石市で小中学生がほぼ全員助かることにつながった防災教育を取り上げました。同市の危機管理アドバイザーを担っているのが、群馬大学大学院社会環境デザイン工学専攻の片田敏孝教授です。

 「従来、土木の仕事は防災施設の整備という領域だけだった。しかし、社会の基盤づくりが仕事だと考えれば、快適で安全な社会の構築のためのマネジメントなども土木の領域のはずだ」と片田教授は言います。安全・安心の担い手は、ハード対策とソフト対策をバランスよく機能させる必要があります。

 今号の「追跡 東日本大震災」では、災害対応が十分に機能しなかった要因を阪神大震災との比較から探り、災害発生後の緊急対応や初期対応の在り方を考え、今後の巨大災害や複合災害のリスクを示しました。防災の専門家である関西大学社会安全学部の河田恵昭教授と津波防災の専門家である東北大学大学院の今村文彦教授へのインタビュー記事も掲載しています。ぜひご一読ください。