表題は、東京大学大学院の中尾政之教授の指摘です。氏の専門は機械工学ですが、2010年12月に刊行した「続・失敗百選」(森北出版)では、製造業や建設業など広範囲に失敗事例を集めて分析しています。

 中尾教授は言います。「発生したミスのデータを調べてみると、派遣やパートなどの非正規社員よりベテラン職員や正社員にミス発生の問題があることの方が多い。同じ仕事を十年以上もやっているようなベテランが、むしろ大きな事故を起こしている」と。

 経験があるからといってミスを犯さないわけではないのです。ベテラン技術者に任せたから大丈夫だという思い込みも、落とし穴になるということです。

 全国土木施工管理技士会連合会の会報に掲載された施工ミス事例を独自に分析した水野テクノリサーチの水野哲代表は、経験不足より調査不足の問題が大きいと指摘しています。施工者が同種工事を経験したかどうかにかかわらず、事前に調査や検討をしなかったことがミスの原因になっていたというのです。

 日経コンストラクション2月28日号の特集「なぜ単純ミスを防げないのか」では、実例をもとに、思い違いなどの単純ミスの傾向と対策を探りました。上記の内容は、その一例です。

 設計ミスの傾向と対策にも大きくページを割いています。建設コンサルタンツ協会関東支部によるミス事例の実態調査は、興味深いミスの背景を浮き彫りにしました。32のミス事例を分析したところ、成果品の納期が3月に集中していただけでなく、納期の1~2カ月前に設計条件が決まった業務が約6割を占めていたのです。建設コンサルタント会社による照査体制の強化とともに、発注に起因する問題も改善していかなければ設計ミスを減らすことはできないことを示唆しています。

 日経コンストラクションには、「事故に学ぶ」という常設欄があります。事故やミスがなぜ発生したのか、そこから学ぶべき教訓とは何かを、最近の具体的な事例から明らかにしようとする企画です。過去に取り上げた施工ミスのなかには、ベテラン技術者が図面を読み間違えた単純ミスを誰もチェックしなかったという事例もありました(2010年4月23日号掲載)。今号の特集と併せて、ほぼ月に一度のペースで掲載している「事故に学ぶ」をお読みいただければ、より参考になると思います。