JV相手の工区で桁が落下

 案の定、タンロン社の工事は遅れた。さらに、10年4月18日にタンロン社の工区でPC(プレストレスト・コンクリート)製のI形桁が落下する事故が起きた。幸いにも負傷者はいなかったが、工事は40日間にわたって止まった。

 事故の原因は単純だ。I形桁を橋脚の上に架設した後、本来はすぐに落下や転倒を防ぐために横桁を施工しなければならない。ところが、落下した個所は09年12月にI形桁を架設したあと、横桁を施工せずにそのまま4カ月間も放置していた。原因は単純だが、背景には非効率な施工体制や安全意識の低さがある。

 田原所長によれば、ベトナムでは工種ではなく工事範囲を細かく分けて傘下の下請け会社に発注し、下請け会社が各工事範囲ですべての工種を施工するのが一般的だ。桁の架設は大型クレーンを保有する別の会社が担当する。

 「元請けのタンロン社の職員が現場にあまりおらず、下請け会社が主導していた。場合によっては、作業員だけでものごとが進んでいた」と田原所長は言う。下請け会社間の連携がないまま、I形桁がどんどん架設され、横桁の施工が追い付かない状態が続いたのだ。

 工事再開の許可が出たのは40日後の5月28日だ。「事故前からタンロン社に対し、安全行動や設備に関して再三再四注意していたが、直らなかった。事故後、当社のやり方をまねて改善した」(田原所長)。ヘルメットのかぶり方や安全靴の着用、足場の設置、整理整頓など基本的なことから改めた。

 三井住友建設に対し、発注者から処分はなかった。ベトナムでは、事故を起こした当事者だけに処分を下すのが通例だ。工区を分けて責任施工する形をとったことでリスクを回避できた。

(日経コンストラクション2010年7月9日号の記事に加筆・修正しました。一部を除き、文章中の肩書や年齢、データは掲載時のものです)