「生物多様性」という言葉が、マスメディアで頻繁に登場するようになってきました。10月18日から名古屋で開催される生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)を見据えた報道です。生物多様性の重要性が叫ばれていますが、土木事業にどのように関係してくるのでしょうか。土木技術者はどのような姿勢で臨めばいいのでしょうか。そんな観点から生物多様性時代の土木の在り方を考えたのが、日経コンストラクション10月8日号の特集「生物多様性との付き合い方」です。

 進士五十八・東京農業大学名誉教授は、「『また配慮しなければならない課題が一つ増えた』と迷惑顔をするようではいけない。生物多様性を公共事業の信頼を回復する絶好のチャンスだととらえるべきだ」と話しています。

 確かに、土木技術者の取り組み次第で生物多様性が豊かになる可能性はあります。一方で、配慮が不十分なために生物多様性を損ない、さらなる土木バッシングの火種になる恐れもあります。チャンスをつかみ、リスクを回避するために、特集記事では生物多様性を保全しようとする土木事業の最前線の試みを紹介するだけでなく、やってはいけない「べからず集」をまとめました。生物多様性の保全技術を武器に受注を狙う建設会社や建設コンサルタント会社の動きも追いました。ぜひご一読ください。

 生物多様性の保全の対象になるのは、手付かずの貴重な自然だけではありません。人間の営みのなかではぐくまれる多様な生態系も重視しています。その点では、土木事業を進めるうえで生物多様性は無視できないテーマだと言えます。

 土木事業の過程でたまたまはぐくまれた生態系であっても、これを積極的に保全しようとする動きは既に始まっています。今年5月に仮オープンした北九州市の「響灘ビオトープ」は、元々は廃棄物処分場でした。埋め立てを終え、放置した20年近くの間に、不同沈下で地面に起伏が生じ、窪地は大きな池になり、渡り鳥などが飛来するようになりました。処分場の覆土工事を進めるに当たって、この意図せぬ自然環境を保全しようとしたことが、現在のビオトープ(生物の生息空間)につながっています。ベッコウトンボなどの絶滅危惧種も見られるそうです。