車両が衝突した際の荷重を考慮しないで、擁壁上にガードレールを設置してしまった。上部の土砂や通行車両などの荷重を考慮しないで、ボックスカルバートの基礎杭を設計してしまった……。2008年度の会計検査報告に記載された指摘事例の一例です。

 なぜこんな設計ミスを防ぐことができなかったかと思うと、ため息が出ます。しかし、このような「残念」なミスは繰り返されているのです。日経コンストラクションが04~08年度の会計検査報告に基づき、土木工事の設計や施工にかかわる指摘事例を独自に分析したところ、知識不足または理解不足によるミスが約7割を占めていました。

 日経コンストラクション2月26日号の特集「なくならない『残念』なミス」は、会計検査報告に焦点を当てた企画です。最近の指摘事例を題材にして会計検査院の調査官や発注機関の担当者などに直接取材し、「残念」なミスがなぜ起こったのかを探りました。加えて、04~08年度の会計検査報告に記載された指摘事例を独自に分析。どのようなミスが多発しているのか、指摘の傾向を明らかにし、指摘の根拠となった基準書などを例示しました。過去の指摘事例に学ぶことがミスをなくす第一歩と考えてのことです。

 しかし残念ながら、過去の指摘事例に学ぶだけでは「残念」なミスをなくすことはできないでしょう。事業を進める段階でミスを見つける能力のある技術者がチェックする、という体制が整っていないからです。発注機関の内部に、技術面を適切にマネジメントして事業を遂行できる技術者がそろっているわけではありません。

 発注者の技術力を高めなければならないという議論はあります。すべての発注機関で技術職員の能力を高めることができれば、それに越したことはありませんが、非現実的です。国土交通省の資料によれば、約2割の市で土木技術者が一人もいないのが実情です(2007年9月時点)。

 技術面を適切にマネジメントすることができない自治体がなくならない限り、「残念」なミスはなくなりません。そうした自治体では、技術不足を補完する抜本的な対策が必要ではないでしょうか。技術力のある周辺の発注機関が面倒をみるとか、第三者機関や民間企業の技術力を生かす仕組みを考えるとか。政権交代後に、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)などの活用が脚光を浴びていますし、地方分権の流れのなかで国の出先機関廃止の方針が打ち出されていますが、そうした検討の際にはぜひ、発注機関の技術不足を補完する現実的な仕組みも考えてほしいものです。

 発注者側で技術面を適切にマネジメントできなければ、設計ミスだけでなく様々な無駄が生じやすくなります。会計検査院も、個々の公共事業の無駄遣いを指摘するだけでなく、抜本的な改善につながるようにミスを生む体制や仕組みに踏み込んだ指摘をしてほしいと思います。