コンクリートのひび割れは避けられないものだと発注者に説明したら、「あなたは最初から傷が付いている新車を買うのか」と言われたーー。

 これは、日経コンストラクションの取材の過程で、ある技術者から聞いたエピソードです。公共工事の発注者は、コンクリートのひび割れに過敏になっています。許容できるひび割れまで一緒くたに悪者扱いされ、問題を追及されてはたまらないという施工者の心情は容易に想像できます。

 発注者は、技術的な観点からコンクリート構造物という資産を見る目を養うべきだし、それが自分の手に余るようなら技術的な評価ができる外部の技術者にチェックを委ねるべきです。しかし、いわゆる団塊の世代の退職もあって、残念ながら発注者の技術力は高まるどころか、さらに低下する恐れがあります。外注するための知識や財源も不足しがちです。

 現実的には、施工者が施工前にひび割れを予測し、その対策も含めて発注者と情報を共有することが重要になっています。事前の協議が不十分な状態で施工後にひび割れ問題に直面すると、トラブルの収拾が難しくなるばかりか、工事成績評定にも響きかねません。

 さらに言えば、受発注者間という土木の内輪の世界だけで情報を共有するのでなく、一般の市民にも分かるような情報を社会に示すことができれば、土木への社会の理解は深まるはずです。一般の市民からひび割れを指摘されたときに発注者がしっかりと説明できるだけの情報を持っておくことはもちろん、コストをかけたほうがひび割れを抑制しやすいという視点に立てば、ひび割れの発生確率とコストとの関係を明示することが望まれます。「あなたは最初から傷が付いている新車を買うのか」などと言われても対処できるように、かけるコストによってひび割れの入り方に差が出る点を説明できるようにしておくわけです。コストを無視した過剰スペックの要求への歯止めになるのではないでしょうか。

 日経コンストラクション12月11日号の特集「知っておきたいひび割れ対策」では、昨今のひび割れ問題の深刻化を踏まえて、ひび割れを防ぐための施工段階の工夫例や設計・材料面での工夫例のほか、ひび割れ問題と付き合うための作法を紹介しています。最近の研究でひび割れの発生メカニズムの解明が進み、各種技術基準が改定されて、ひび割れを「制御する」という考え方が出てきている潮流も解説しています。ぜひご一読ください。