9月初め、広島市は「広島南道路太田川放水路橋梁デザイン提案競技」の選考結果報告書を正式に取りまとめた。7月14日に開かれた第二次選考で、最優秀案のエイト日本技術開発のグループのほか、優秀案1案と入選案4案を選んだ。選考の決め手となったのは、市民と地域に対する細かな配慮と、歩行者にドラマチックな眺めを提供できる歩道の案を盛り込んだデザインだった。


最優秀案に選ばれたエイト日本技術開発の提案。長さ376.5mのPC4径間連続箱桁橋を、二つの鋼アーチで補剛する複合構造だ(資料:エイト日本技術開発)
最優秀案に選ばれたエイト日本技術開発の提案。長さ376.5mのPC4径間連続箱桁橋を、二つの鋼アーチで補剛する複合構造だ(資料:エイト日本技術開発)


 今回のデザイン提案競技は、今年3月の「平和大橋歩道橋デザイン提案競技」(日経コンストラクション2009年4月10日号トピックス参照)に続く第二弾とも言えるもの。最優秀案に選ばれたエイト日本技術開発の提案は、その景観的なバランスと、車道と明確に構造を分離した歩道空間の考え方が高く評価された。

 「アーチの形がきれいで、長く見ていて飽きのこないデザインだと思う。加えて、歩行者と自転車利用者が、楽しく、無理なく利用できるようによく考えられている」。広島南道路太田川放水路橋梁デザイン提案競技選考委員会の委員長を務めた篠原修・政策研究大学院大学教授は、最優秀案をそう評する。

最終選考はほぼ“無風”

 広島市の湾岸部では、国土交通省広島国道事務所と広島県、広島市、広島高速道路公社が、全長23.3kmの広島南道路の整備を進めている。その一部となる太田川放水路橋梁は、計4車線の自動車専用道路と片側の歩道からなり、広島市が建設する。長さは計800mだ。

 「構造形式を含め、これほど提案のバリエーションがあるとは思ってもみなかった」。デザイン提案競技をそう振り返るのは、広島市道路交通局街路課の後藤賢司課長だ。今年5月22日の提出期限までに、国内13者、海外2者の計15者の設計者グループから提案の応募があった。

 6月10日の第一次選考で6案に絞り込んだ後、7月14日の第二次選考では、公開プレゼンテーションを実施した。設計者グループ6者が、各自の提案の説明と、選考委員の質問に応じる様子が、市民に公開された。約300人を収容できる会場には、入りきれないほどの人が詰め掛けた。

 同日午後、非公開で開かれた最終選考は、ほぼ“無風”だったようだ。各委員が、最も推す案2点、次に推す案1点の持ち点で、2案ずつ推薦した結果、エイト日本技術開発の提案が最高の9点を得た。次点は、ドーユー大地の8点だった。

 得点は審査の参考と位置付けて実施したものだが、その後の議論でもエイト日本技術開発の優位が揺らぐことはなかったという。

車道をくぐる緩勾配の歩道

 同社の勝因は、微に入り細をうがった市民への配慮だろう。それを象徴するのが、利用者の立場に立った歩道空間の考え方だ。

 右岸側の歩道の入り口は、住宅地に最も近い橋の上流側にあるが、そこから車道の下をくぐって、途中から眺めのよい下流側に回り込む。

 エイト日本技術開発道路・交通事業本部の椛木洋子構造橋梁分野統括は「歩行者や自転車の利用を考えると、入り口は上流側のほうが良いが、せっかくの風景を楽しんでもらうには、下流側にあったほうが良い。そこで、車道とは違う線形の歩道を提案した」と歩道の検討の経緯を話す。

 歩道はプレキャストコンクリート製の床版を、車道の橋桁から鋼パイプで吊る構造。車道の下をくぐり、下流側で車道と同レベルに達するまで、2%の勾配で約350mのスロープが続く。進むに連れて風景が移り変わり、やがて開放的な眺望が目に飛び込んでくるというドラマチックな演出だ。途中には、足を休められるベンチの設置も提案している。

 「橋は、渡るだけのものではない。ここでは、地域や住民にとって、新しいふるさとを感じられる場づくりにこだわった」。エイト日本技術開発の設計チームに参画したランドスケープが専門の二井昭佳国士舘大学講師は、こう強調する。

 同案が見積もった事業費は、募集要項で定めた上限140億円の8割あまりの約116億円だった。

 「この提案をもとに詳細設計に入り、2013年の開通を目指して事業を進めたい」と、広島市道路交通局街路課の大賀逸司課長補佐は話す。