特設の“指令部”が大現場を統括
施工体制の面では、15社で構成する一組のJV(共同企業体)だけで施工するのがこの工事の特徴だ。15社によるJVというのも珍しければ、これだけ大規模な工事を一つのJVが担うというのもほとんど例がない。
工事は設計・施工一括発注方式の入札で、鹿島を幹事会社とするJVが5985億円で受注。JV内に設けたJV総合事務所が工事を統括している。施工管理だけでなく、これまで発注者が担っていた全体の工程調整や船舶の運行管理などのマネジメント業務も受注者の責任で行う。JVの職員は約400人、工事関係者は総勢約800人に上る(07年10月時点)。
JVの工事事務所は、東京港南東側の中央防波堤埋め立て地にある。JVの事務所や専門工事会社の事務所、宿舎などが30棟以上立ち並び、中央防波堤の荒野に「JV村」を形成している。
工事関係者は、海を隔てて約6km離れた施工現場と中央防波堤を、船で片道約20分かけて行き来する。
人の貸し借りも総合事務所が調整
鹿島JVは、全体の工事を九つの工区に分割した。桟橋に使うジャケット構造物の製作以外の各工区は、JV構成会社のうち3、4社が施工グループを形成している。施工グループは、空港土木、港湾土木、浚渫、舗装、鋼構造物の5工種の中から、各工区に必要な工種を得意とする会社を組み合わせている。
「様々な考えを持つ異工種の企業が利害を超えて、お互いを尊重し合わなければいけない」。鹿島JVの峯尾隆二所長は、15社による共同プロジェクトのポイントをこう語る。峯尾所長は鹿島の常務執行役員であり、以前は鹿島東京支店(現在の東京土木支店)の副支店長を務めていた。役員を現場代理人に配置するのは、同社では異例のことだ。
「これまで、複数の工区の工程調整など工区間のマネジメントは発注者が担ってきた。この工事では、マネジメント業務が各工区の取りまとめ役であるJV総合事務所に任されている」(峯尾所長)。
JV総合事務所は、各工区共通の管理組織で、工事全体の“指令部”の役割を果たす。全体の進ちょくや出来高の管理、設計変更の手続き、請負代金請求事務などを業務とする。JVを構成する各社の社員によって組織されている。もし、トラブルなどである工区の工事が遅れた場合、進ちょくの回復を図るために、他工区から人員や機材を回すといった調整もJV総合事務所の役割だ。
「これほど大規模な設計・施工一括発注方式の工事はいままでに例がない。建築では設計・施工一括方式が当たり前のように行われているが、土木ではまだなじみがない。D滑走路の建設工事の経験が試金石となって、今後の土木工事に生かされるだろう」と峯尾所長は話す。
[現場概要] (D滑走路全体)
- 名称=東京国際空港D滑走路建設外工事
- 施工場所=東京都大田区羽田空港地先
- 発注者=国土交通省関東地方整備局
- 設計者・施工者=鹿島・あおみ建設・大林組・五洋建設・清水建設・新日鉄エンジニアリング・JFEエンジニアリング・大成建設・東亜建設工業・東洋建設・西松建設・前田建設工業・三菱重工業・みらい建設工業・若築建設JV(現場代理人:峯尾隆二、元請けの技術者数:約500人)
- 工期=2005年3月~09年2月(契約時)
- 工費=5985億円(契約時)
- 入札方式=総合評価落札方式の一般競争入札
- 予定価格=5995億4920万2000円
(日経コンストラクション2007年10月12日号、09年7月10日号の記事に加筆・修正しました。一部を除き、文章中の肩書や年齢、データは掲載時のものです)