土木技術の粋を集めて施工
航空需要の増加から発着能力が限界に近づいている羽田空港で、再拡張事業が進んでいる。その目玉となるのが、4本目の滑走路となるD滑走路の新設だ。
現空港島の南側に長さ3120mの人工島を築き、その上に2500mの滑走路を建設する。使用開始は2010年10月の予定。羽田空港全体の年間発着能力が、現状の29.6万回から40.7万回にまで増える。
多摩川の流れを妨げない構造に
まずは、この新しい滑走路の技術的な特徴を見ていこう。
人工島のうち、北東側の2020mは埋め立て構造、南西側の1100mは桟橋構造を採用した。埋め立てと桟橋を組み合わせたハイブリッド構造の滑走路は、世界的に見てもほとんど例がない。人工島の南西側は、多摩川からの水流がある場所だ。桟橋構造にすることで、水の流れを妨げないようにした。
桟橋部では、海底下70mまで直径1.6mの鋼管杭を打設し、支持地盤に到達させる。この鋼管杭に、大きなテーブルのような「ジャケット」と呼ぶ鋼管トラス構造物を据え付ける。その上に、プレキャスト製のPC(プレストレスト・コンクリート)床版を設置してアスファルト舗装を施し、滑走路とする。
鋼管杭は全部で約1170本。鋼管は約90mの長さが必要なので、分割した鋼管を海上で溶接しながら打設する。また、工場であらかじめ製作したジャケットを鋼管にかぶせるようにスムーズに据え付けるために、鋼管の位置と鉛直性の精度を高めなくてはならない。そこで鋼管杭を打設する際は、リーダーと呼ぶ位置決め装置を備えた台船を利用する。
ジャケットの据え付けには、航空機の空域を避けるために、低空頭型のフローティングクレーンを使用する。
1カ月に200万m3の土砂を供給
一方の埋め立て部では、最大20mの水深に、最大で高さ37mの盛り土をして、長さ2020m、幅424mの陸地を造る。施工する場所は、軟弱な粘性土層が堆積(たいせき)した多摩川の河口域。粘性土層内の水分を抜き、滑走路の開業までに早急に沈下を促進する必要がある。
沈下促進のために海底の地盤改良が必要だ。護岸の内側でサンドドレーンを、護岸部分ではさらに沈下効率が高いサンドコンパクションパイルを、それぞれ施工する。
埋め立てに用いる山砂は、近隣で安定した供給が可能な千葉県産のものを木更津港から土運船で運搬する。山砂の供給量は最大で1カ月当たり200万m3だ。
桟橋部と埋め立て部の接続部分では難問が生じる。埋め立て部は滑走路の使用開始後もわずかに沈下するのに対し、支持地盤まで杭を打って造る桟橋はほとんど沈下しない。何も対策を取らなければ、滑走路の途中に段差ができる恐れがある。性質の異なる二つの構造物をどのように一体化させるかがポイントだ。
そこで、橋の基礎や橋台として用いる鋼管矢板井筒構造を、桟橋部の護岸に採用した。隣り合う鋼管矢板の接続には、高剛性継ぎ手を使用する。鋼管矢板の上には頂版コンクリートを打設して、護岸全体の剛性を高める。この構造によって、接続部分の沈下を防ぐ。
工事が始まったのは07年3月30日。1年目は海上での地盤改良工事が中心だった。2年目に入って、桟橋部や連絡誘導路部で鋼製ジャケットの据え付けが始まった。埋め立て部では周囲の護岸がほぼ完成するなど、海水面上での作業が多くなった。
工事開始から約2年半が経過し、空港島がほぼ姿を現した。09年11月には舗装工事を本格的に開始し、ジャケット据え付けは来年初めまでに終わる予定だ。10年8月の完成と、同10月の使用開始を目指している。