日経コンストラクション7月10日号の特集の誌面から(写真:吉田 誠)
日経コンストラクション7月10日号の特集の誌面から(写真:吉田 誠)

 思いのほか、多くの市民が土木遺産に興味を抱き、好意を持っているーー。日経コンストラクション7月10日号の特集「人を呼ぶ土木遺産」をつくり込む過程で感じた率直な印象です。たくさんの市民が土木遺産や産業遺産を見に集まっていることに着目して特集を企画したのですが、市民の関心の高さは想像以上でした。

 例えば、明治時代に建設されたレンガ造の橋やトンネルなどの線路跡を散策道として整備した群馬県の碓氷(うすい)峠鉄道施設には、年間で10万人以上の観光客が訪れています。レンガ造の4連アーチが美しい碓氷第三橋梁を前に、カメラを構える観光客が目に付きます。

 福島県の荒川を舞台に、砂防堰堤(えんてい)群や霞堤(かすみてい)などの土木遺産を巡る6月のウオーキングイベントには、雷が鳴る悪天候のなか、約900人の市民が参加しました。傘や雨がっぱが手放せない悪天候にもかかわらず、参加したくなる魅力がそこにはあるわけです。2009年度に開催した2回のイベントで合計約3000人を集めました。

 日経コンストラクションが実施した意識調査からも、土木遺産に対する市民の関心の高さがうかがえます。土木遺産の保存の是非などを尋ねる意識調査を土木関係者と一般市民の双方に実施したのですが、市民の回答率は土木関係者の約3倍。土木遺産を「保存すべきだ」とする一般市民の回答は、土木関係者と同様に約9割を占めました。

 土木関係者と一般市民を対象にした意識調査は、えてして両者の意識の乖離(かいり)ばかりが浮き彫りになりがちです。土木界と社会との温度差がほとんどなかった今回の意識調査はその点では珍しく、土木界が社会とのつながりを取り戻すヒントが隠されているように思います。詳しくは特集記事をお読み下さい。