公共工事では一般競争入札の拡大傾向が続いています。日経コンストラクションの調査では、都道府県や政令市の3分の1が2009年度に一般競争入札を拡大する見通しであると回答しました。08年度に一般競争入札の件数が指名競争入札を上回った都道府県は、07年度に比べて倍増しています。

 その一方で、競争緩和や地元保護を狙った施策も目に付くようになってきました。最たる例が低入札価格調査制度の調査基準価格や最低制限価格の引き上げです。このほか、景気対策の名の下に指名競争入札を復活させたり、入札時の地域要件を強化したりする自治体が出てきています。総合評価落札方式の入札の評価項目として、本社所在地などの地域要件、地域への貢献度、地域ボランティアへの参加、下請けへの地元企業の活用度などを加えるケースが増えています。

 日経コンストラクション5月22日号の特集「混乱する入札制度」では、国土交通省や都道府県、政令市、高速道路会社といった公共工事の主要発注機関を対象に実施した入札・契約制度の調査結果を掲載しました。短期間で目まぐるしく変わる入札・契約制度の混乱ぶりや発注機関による方針のばらつきなどを明らかにしています。

 これまで競争強化に向けた動きばかりが続いてきたせいか、落札率引き上げ策や地元優遇策といった「競争緩和策」に対して受注者側には歓迎ムードもあります。しかし、「競争緩和策」はそう甘くはありません。

 競争力を磨いてきた会社がこれまでのように受注できなくなり、競争力の乏しい会社を延命させる可能性があるだけではありません。調査基準価格や最低制限価格の引き上げによって実際に落札できる価格帯が一段と狭まって激戦となり、落札できるかどうかが運次第というような様相がさらに強まる可能性があります。

 建設業界の根本問題の一つは、市場が急激に縮小したほどには建設会社の数が少なくなっていない点だといわれています。下手に入札改革を逆行させれば、建設業界の健全化を遅らせ、少ないパイを多くの会社で奪い合う状態を長く続ける結果になりかねません。

 落札率引き上げ策などを当面の措置と位置付けている自治体もあります。世界的な金融危機に伴う一時的な景気対策であるなら、「競争緩和策」がこのまま続くとは限りません。今後とも競争力を磨き、体質改善の努力を惜しまないことが重要です。