中村 裕司(なかむら・ゆうじ)
(株)アイ・エス・エス代表取締役。
1949年、三重県生まれ。72年に名古屋大学卒業後,石川島播磨重工業(現在のIHI)に入社。89年に同社を退社して(株)アイ・エス・エスを設立。橋の維持管理・更新に関する調査やアセットマネジメントの動向調査などの業務を数多く手がけている。(社)土木学会ファイナンス手法研究小委員会副委員長。「建設技術者が危ない」(2002年、日刊建設通信新聞社)など著書や論文も多数。
中村 裕司(なかむら・ゆうじ)
(株)アイ・エス・エス代表取締役。
1949年、三重県生まれ。72年に名古屋大学卒業後,石川島播磨重工業(現在のIHI)に入社。89年に同社を退社して(株)アイ・エス・エスを設立。橋の維持管理・更新に関する調査やアセットマネジメントの動向調査などの業務を数多く手がけている。(社)土木学会ファイナンス手法研究小委員会副委員長。「建設技術者が危ない」(2002年、日刊建設通信新聞社)など著書や論文も多数。
「国」という言葉からは、「国家」と「国土」という響きが伝わってくる。半面、「国民」という空気が漂うことは希薄だ。同様に「国益」と言う場合、対外的優位性などの「国の権威や権益」を感じるが、「国民の利益」という空気はこれまた薄い。
連載の第10回までは、地方自治体が持つ資産の中から有料道路を取り上げ、その流動化の可能性やビジネスの仕組み、克服すべき法制度や課題、さらには流動化がもたらす自治体の財務の改善効果などについて述べてきた。今回は、自治体が所有するインフラ資産全般について、流動化の対象として魅力を高めるにはどうすればよ…
資金調達の非効率を改善するために、税金や借金に頼らないインフラ整備、つまり民間資金の導入の必要性を再三、述べてきた。既存のインフラはこれから急速に老朽化し、LCC型AM*(ライフサイクルコスト型のアセットマネジメント)などによるコスト節減策だけでは限界があるからだ。
インフラ資産を担保にした債券を購入しようとする投資家は、長期安定的な運用を希望する場合が多い。株式などに代表されるハイリスクの商品よりも、ローリスクの商品を選択する人々だ。だから、長期安定的に事業が継続し、他業への転換が困難な有料道路事業は、このような投資家向きの流動化商品としてふさわしい。
特別会計改革、歳入・歳出一体改革、資産・債務改革など、財政システムをめぐる改革の議論が盛んだ。その中で、インフラ整備に対する新たなPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ、官民連携)である「民間化」の手法として、インフラファンドが注目されている。
自治体が道路を流動化する場合、その目的は何だろう。“初めに資金ありき”の「資金運用型」は、新設道路の建設や運営・管理の資金を民間から調達することが目的となる。一方、“初めに資産ありき”の「資産流動型」は、既存道路の売却金額によって残債務を返済。
証券化とは、資産流動化のために資金を集める手法の一つだ。資産が生み出す収益を担保に債券を発行する。米国や欧州、オーストラリア,カナダなど海外では広く道路が流動化され、資金集めの手法として証券化される場合は多い。既存の道路を民間に売却して資金を得る「資産流動型」もあれば、資金調達から建設、運営管理ま…
自治体が本来の手段で債務を減らそうとすれば、増税か公共サービスの切り捨てしかない。そのどちらも許されないなら、自治体が直面する課題は「資金調達」である。これまで自治体の財源は、税収を除けば交付金や補助金、地方債だった。だが、国から回るお金は先細りするし、地方債の発行は借金を増やす。
今回からは、地方のインフラ整備における民間資金の活用について展望していく。地方自治体がインフラ整備を行う場合、民間から資金を調達する手法は「地方債」と「PFI(民間資金を活用した社会資本整備)」くらい。極めて限定的である。
この連載の第2回で書いたように、インフラは経済インフラと社会インフラに大別できる。このうち、本稿が対象とするのは経済インフラである。経済インフラを供給する主体は、例えば高速道路は国、上下水道は地方公共団体、鉄道は民間企業など様々だ。
「必要な道路はつくるし、無駄な道路はつくらない」といっても、道路行政や道路技術に長年かかわってきた専門家ですら、なかなか「真に必要な道路」をみんなに納得してもらえるように立証することは難しい。だから、こんなにも世の中から非難されているとも言える。
更新や維持管理の需要が増大する一方で、公共投資は削減の一途。構造物を維持することさえ難しくなり,橋の通行止めや道路の陥没といったインフラの「荒廃」が日本でも現実になりつつある。予防保全の採用などによって維持管理費の削減を目指す自治体は増えてきたが、単なるコスト削減だけでは早晩、行き詰まるだろう。