日経アーキテクチュアは7月21日、書籍「山梨式 名建築の条件」を発刊した。建築家の山梨知彦氏(日建設計執行役員設計部門副統括)が2012年~13年の2年間、計20回にわたり日経アーキテクチュア誌上で連載した「山梨知彦の名建築解読」(連載途中で「山梨式名作解読」に改称)をまとめたものだ。書籍化に当たり、全体を7つのテーマに分けて再構成し、建築家・西沢立衛氏との対談などを加えている

書籍「山梨式 名建築の条件」のカバー。カバー写真は、石山修武氏が設計した「幻庵」。ブリッジの上に立つのは山梨氏
書籍「山梨式 名建築の条件」のカバー。カバー写真は、石山修武氏が設計した「幻庵」。ブリッジの上に立つのは山梨氏

 山梨氏は、クライアントに対する“プレゼンテーションの達人”として知られる。それは取材への答え方も同様で、山梨氏が説明する言葉を順に文字に起こしていくと、ほとんど記事の骨格が出来上がってしまう。そんなことは当然だろうと思われるかもしれないが、意外にそういう話し方ができる建築家は少ない。普通は、こちらが「なぜそうなのか」「社会にとってどういう意味があるのか」としつこく聞かないと、なかなか筋道を立てて語ってくれないものだ。

 山梨氏に「名建築について独自の視点で分析する連載をやりませんか」と相談したのは、2011年の秋だった。山梨氏が過去に名建築について書いたものを読んだわけではない。山梨氏が名建築好きだと人づてに聞いたわけでもない。理由は単純。自分の担当作をこれほど論理的に説明できる人は、他の人が設計した建物であっても、その魅力を明快に説明できるのではないか──そんな編集者としての勘だ。

 勘は当たった。本書には連載で取り上げた20の記事すべてを再録しているが、1本もハズレはなかったと思う。どれも、一般的に語られているその建築の魅力を踏まえたうえで、設計者にしか気付かない着眼点から新たな魅力や、現代に通じる意味を読み解いている。本書の帯には「7つのキーワードで読む“設計意図の裏側”」と書いたが、裏を読むことで、表がよりクリアになるという相乗効果がある。