日経アーキテクチュアではこのほど、「NA建築家シリーズ」既刊8冊について、電子書籍を発売した。それを記念して、各書に収録しているインタビュー記事を1本ずつ公開していく。まずは「NA建築家シリーズ 伊東豊雄 増補改訂版」に収録した「せんだいメディアテーク」完成時の伊東豊雄氏のインタビュー記事(2001年)から。

「NA建築家シリーズ 伊東豊雄 増補改訂版」の表紙
「NA建築家シリーズ 伊東豊雄 増補改訂版」の表紙

──コンペ時の原型のイメージがどこまで保たれているか。その印象から。

 端的に言って、変わりましたね。当初、メッシュ状のチューブは重さをほとんど感じさせない、本当は柱であり構造体ではあるが、構造体に見えないようなものというイメージでした。しかし、実際に出来上がったものは、やはり構造物そのもので、大きな重力を支えている建築です。特に工事期間が長くて、工事中に鉄との格闘を見続けましたから、「鉄でつくられた建築」という印象が頭の中に強く残っています。だからといって、プロジェクトがうまくいかなかったということでは、もちろん、ありません。むしろ、建築に対する自分の考え方が、この6年間で変わってきたような気がします。

──というと?

 これまでは、「自分のイメージの中にある空間をイメージ通りにつくりたい」「ものの存在感を消したい」ということが、私の心がけてきた建築であったような気がするのです。しかし、メディアテークを通じて、ものをつくるプロセスにおけるコミュニケーションとか、建築の使われ方とか、もう少し社会的な問題への関心が強くなったと言えます。

──それは、建築の存在意義を確かめながらつくったということでしょうか。

 これまで自分がつくろうとした建築には感じなかったのですが、メディアテークは私が想像しているより強く単純な建築でした。その強さや単純な明快さが、つくるプロセスに表れて、いろいろな人が関心を持ってくれました。そして、当初の単純なイメージが建築にかかわった人たちの中に共有され、そのことが建築を支えたような気がしています。

伊東豊雄氏(写真:的野 弘路)
伊東豊雄氏(写真:的野 弘路)