数十件を超える推理

 このため、近年になると、識者の関心は「テーマ」、「五群十五石」、「秘密の構図」という3点に移ってきた。

 これら「3つの謎」を解くべく提唱された「推理の数」は、日本庭園学会誌に掲載された研究論文や筆者自身が行った文献調査によると、軽く数十件を超え、数え方によっては100件を上回る。

 例えば「満月」説。初めに、15の石を満月に見立てた「十五夜月」説が誕生。続いて「満ちれば欠ける」運命を避けようとする「十四夜月」説に発展。最後に陰と陽の循環に注目した「十六夜月」説が提唱された。すなわち、ひと言に「満月」説といっても、その中に3つの説が含まれることになる。

 有名な説を列挙する。
 「虎の子渡し」説
 「七五三」説
 「満月」説
 「星座カシオペヤ」説 
 「朱山五陵」説
 「扇」説 
 「心の字」説
 「京都盆地を囲む五山」説 
 「豊臣秀吉石狩り」説
 「黄金比」説
 「遠近法」説 
 「中心軸の法則」説

 このうち最も新しいのは、2002年、ハルト・バン・トンダ氏など3人の研究者が、世界的な影響力を持つイギリスの科学雑誌『ネイチャー』に発表し、わが国の新聞各紙もこぞって取り上げた「中心軸の法則」説である。この説は、翌2003年、『電子情報通信学会誌』にも、「龍安寺の石庭を科学する」として発表された。

 一つの庭園を舞台にして、数十件もの説が誕生することは、日本国内だけではなく、世界的に見ても極めて異例である。そのため、近年では、「禅の庭」「哲学の庭」「推理の庭」など、石庭が特別な存在であることを示す呼び名も加わっている。