「事業ストップは、最終手段で異常事態」

 首都圏でも事業中止の動きが出始めた。小田急電鉄は2014年4月10日、川崎市の向ケ丘遊園跡地で進めていた住宅開発計画を白紙に戻すと発表。東日本大震災の復興需要と東京五輪の決定で労務費が高騰し、「事業として成立しない」と判断した。

向ケ丘遊園跡地利用の配置図(基本計画時)。建設コストの上昇で白紙に戻った(資料:小田急電鉄)
向ケ丘遊園跡地利用の配置図(基本計画時)。建設コストの上昇で白紙に戻った(資料:小田急電鉄)

 ある大手デベロッパーの役職者は、この発表に驚きを隠せなかった。「事業者としては、労務費が高騰して建設コストが上がっても、利幅を少なくして何とか事業は継続する。事業ストップというのは、最終手段で異常事態。当社の事業で最近その判断を下した例は聞いたことがないが、いよいよ来たか…という印象だ」

 向ケ丘遊園は02年3月に閉園。04年に川崎市と小田急電鉄が跡地利用について基本合意した。10年には、戸建て住宅60戸と低層集合住宅160戸などを整備する基本計画をまとめた。緑に囲まれた高額物件を中心とする計画だった。

 計画では最短で14年下期に着工し、20年春に完成予定だった。しかし、計画をまとめた10年3月と14年春とを比較すると、労務費が3割上昇し、その影響で全体工事費が当初の見込みより1割高くなった。小田急電鉄CSR・広報部は、「資材費の上昇分を加えるとさらに工事費は高くなるだろう」としている。

 また、富裕層を狙った高額物件の都心回帰が進んでいることも、計画を白紙に戻した理由の1つだ。「緑を保全するなどの制約があり、もともと通常の住宅開発より利幅が薄い事業だった。販売面でのリスクも高まったために見直すことにした」(同社CSR・広報部)。今後は、04年に結んだ基本合意書をもとに、再び川崎市と協議しながら計画を練り直す。住宅開発を前提とせず、用途も含めて検討する方針だ。