キプロスを襲った金融危機

 このように多様な歴史・文化遺産を持ちながら、民族対立という政治問題も抱えるキプロスには、現在もう1つの喫緊の課題がある。ギリシャ経済危機に端を発した金融・財政問題である。

 ギリシャ国債を多く保有していた金融機関の立て直しなどを自力で実施できなくなったキプロス政府は、2012年6月にEU及びIMF(国際通貨基金)に対して支援要請を行った。これを踏まえ、EU及びIMFはキプロス経済再生プログラムを策定し、最大100億ユーロの資金支援を行うこととなったのである。昨年(2013年)5月には融資が開始され、EU等が同年10月末から11月初めにかけて実施した検査では、金融機関の資本増強やリストラなどが順調に進められていると評価されているものの、今後も厳しい経済状況が続くことも考えられる。

 その一方、キプロスは、2012年後半にEU加盟後初めてEU理事会議長国を務め、日本とEUとの間でEPA(経済連携協定)交渉を開始するための重要な前提条件であった権限の採択に成功するなど、ヨーロッパにおけるその存在感を高めつつある。今後、政治・経済状況が安定すれば、分断された首都・レフコシア周辺の都市再開発や、南部と同様に各時代の歴史遺産が数多く存在する島の北部も含めた観光・リゾート施設整備などの進展が期待され、日本の関連企業にとってもビジネスチャンスが生まれる可能性がある。

 日本は、安倍総理が今年(2014年)初めにトルコのエルドアン首相と就任後約1年間で3度目となる直接会談を行うなど、ヨーロッパ諸国のみならず、トルコとも良好な関係を築いている。このような観点からも、美しい島国であるキプロスが、ギリシャ系・トルコ系間の対立を乗り越えて平和と繁栄を取り戻すことができるよう、強く願わずにはいられない。

南部の港湾都市・リマソールの海岸(写真:菅昌 徹治)
南部の港湾都市・リマソールの海岸(写真:菅昌 徹治)


菅昌 徹治(すがよし・てつじ)
国土交通省大臣官房秘書室。1976年横浜生まれ。99年国土交通省(旧建設省)入省。2009年4月から12年8月まで外務省EU日本政府代表部(在ブリュッセル)に一等書記官として勤務。