視点1 食堂は二つ以上ほしい

 これは書籍「親に薦めたい!自分も入りたい!老人ホーム探し50の視点」にも掲載した見分け方の視点の一つなのですが、設計者の方にも知っていただきたいことです。

 知らない人同士が大勢で暮らしていくと、人間関係がもつれてしまい、顔を合わせたくないという事態になることがあります。こんなとき、食堂が一つだと逃げ場がありません。また、食堂が狭いと自分が座る席の“定位置”が決まってしまいます。入居したばかりの人がたまたま座った席によって一つの派閥に取り込まれてしまい、その後、仲良くできずに人間関係がぎくしゃくしてしまったという話も耳にします。

 食堂が二つあれば、気まずい関係の人と顔を合わせることもなくなります。設計条件に制約があるケースも多いと思いますが、できる限り、食堂は二つ以上、設けてほしいと思います。もし、十分なスペースを確保できないのであれば、食事の時間帯をうまく分けられるようにするなど、人間関係がもつれたときの逃げ場をどうやって確保するかを考えてほしいのです。

 食堂を二つ以上設けた方がいい理由は他にもあります。自分で普通に食べられる人が、介助の必要な人、食べこぼす人などと一緒に食事をすると、どこか気が滅入ってしまうものです。介助されている側や食べこぼす側にとっても、人に見られたくないという気持ちがあるでしょう。食堂が二つ以上あれば、食事に介助が必要な人とそうでない人の食堂を分けることができます。

 先日、ある人からこんな話も聞きました。病院での治療が終わり、退院して施設に戻ってきたばかりのときは、いろいろな人が食事中にお見舞いの言葉をかけに来るそうです。十分に食事も取れず、わずらわしいので、他の人と別の場所で食事できればいいのにと愚痴をこぼしていました。

 複数の食堂を設ける場合には、フォーマルなイメージとカジュアルなもの、ビストロやカフェなどとタイプを分けて変化を付けるといいと思います。食事というものは本来、パ-ソナルでプライベートな行為です。みんなでわいわい食べる日ばかりでなく、たまには落ち着いて食べたいときもあるのではないでしょうか。