中国のかつての最高実力者、トウ小平は、1978年から改革開放政策を採用し、政治の面では共産党の一党独裁を維持しながら、経済の面では市場メカニズムや企業の民営化など、資本主義的要素を積極的に導入した。そして、1980年、中国初の経済特区として、広東省に深セン経済特区を指定してから30年余り。深センは世界15位の金融センターと言われるまで発展した。

宙に浮かぶ巨大な“庇”

 その深セン市に、レム・コールハースが主宰するOMA設計の「深セン証券取引所」ビルが今秋オープンした。高さ245m、51階建ての超高層には、証券取引所のオフィス、立会場、登録所、手形交換所に加え、情報セキュリティ会社、その他附帯設備が配置され、延べ面積は17万5000m2に及ぶ。

 深センに証券取引所が設置されたのは1990年で、本プロジェクトはその20周年を記念した建築でもある。

OMAの設計。構造設計、設備設計、ビルディングフィジックス、照明デザインをアラップが担当した。建物外構部は、舗装されてほとんど緑地帯がないため、代わりに3層のプラットフォームの屋上部分は庭園となっている(写真:Marcel Lam Photography)
OMAの設計。構造設計、設備設計、ビルディングフィジックス、照明デザインをアラップが担当した。建物外構部は、舗装されてほとんど緑地帯がないため、代わりに3層のプラットフォームの屋上部分は庭園となっている(写真:Marcel Lam Photography)

 非常に特徴的な、宙に浮かぶプラットフォーム(基壇)。このプラットフォームは、3層分、地上約36mの高さで庇状に張り出している。この“庇”に覆われたエントランス前の空間は、“都市の広場”として市民の集会やイベントの場に使用されている。また、低層部の外壁は電光掲示板の機能も持ち、時々刻々と変動する相場情報をリアルタイムに伝える。

 この場所に立てば、ハード面でもソフト面でも現在の深センという街のダイナミズムを感じるであろう。近隣の控え目なデザインのビルは、この証券取引所ビルを真似して、建設途中からキャンチレバー(片持ち梁)による構造を溶接し始めたという話まである。