ゴームリーの「MIND-BODY COLUMN」

 一方、彫刻家のゴームリー氏は、人間の身体と自然との一体感・連続性をテーマにした作品づくりをしている。大阪中心地にある「MIND-BODY COLUMN」と題された作品は、彼自身の身体を象った鋳鋼を10体分積み上げ、さらに背中合わせに連結した、高さ15m以上にもなる彫刻である。

 人間にとっての大地は地球であり、その核の主成分である鉄を素材とすることで、直接的に「大地と人間の連続性」を、上下に積み上げることで「人から人が生まれ発展していく様」を、そして背中合わせの2体が「過去と未来」を見つめている、というコンセプトである。

大阪のビル群の中に建つ作品(写真:Osamu Murai)
大阪のビル群の中に建つ作品(写真:Osamu Murai)

 この彫刻の足元は幅が170mm、彫刻全体の立横の比率は約1/90という一見不安になる細長い比率である。地震国である日本では、何らかの地震対策が必要になるが、本作は重量約15tという重量である。地震時の応答加速度を減ずるため、彫刻を支持する台座の下に球面すべり支承を設置した、免震構造とすることに決定した。

免震構造にした足元の図。この免震構造にすれば応答加速度は約1/3となり、大地震時においても転倒しない(資料:Nigel Whale_Arup)
免震構造にした足元の図。この免震構造にすれば応答加速度は約1/3となり、大地震時においても転倒しない(資料:Nigel Whale_Arup)

 鉄の肌質にこだわるゴームリー氏は、溶接はおろか、一切の補修も容赦しない。この鋳鋼10体分を溶接なしで積み上げるためにアラップが提案したのは、「焼き嵌め」と「冷やし嵌め」という手法である。基本原理は、温度差による鉄の膨張と収縮を利用したもので、オス側を冷やして収縮させ、メス側を暖めて膨張させ、それぞれを差し込む。温度差がなくなるとプレストレスが導入され接合できる。

木型(写真:Arup)
木型(写真:Arup)
焼き嵌めの瞬間(写真:Arup)
焼き嵌めの瞬間(写真:Arup)

 ただ、この彫刻の不均一な肉厚での応力状態を机上の計算で予測することは困難であり、解析プログラムを用いてシミュレーションを行った。結果、メス側に対して、オス側を約1/600倍大きくし、1/1000mmの精度で機械切削した。胴体側は240℃、足首側は-100℃、それを2秒足らずの間に一気に差し込む、緊張の瞬間である。

 こうやって一切の溶接もバリも補修も無い鉄の肌には、雨水による錆が滑らかに流れる。この赤褐色の筋模様こそが、人間の流す涙や血のメタファーだということだ。