1999年に日本でPFI法が施行されて14年。失敗例などが取り沙汰される一方、頭打ちの国内需要の対策として、成長が続く、アジアなどの新興国のインフラ整備に日本の技術やノウハウを生かすPPP(官民連携)への期待は大きい。安倍政権は成長戦略のなかで、PFIやPPPの事業規模を今後10年でいまの3倍の12兆円に拡大するという成果目標を掲げた。

 PPP自体は1990年代、経済が低迷する英国で生まれた概念で、ヨーロッパでは広く導入されている。ここでは、近年、急速にPPPによるプロジェクトが増えているスペインの例を取り上げる。

正式名称はレイ・ファン・カルロス病院。着工時は好景気にあったスペインの情勢は大きく変化し、本病院が竣工した2012年3月には経済危機の最中だった。ただし経済の活性には一役買い、雇用の促進になったという。施工者はスペインの建設会社、オブラスコン・ワルテ・ライン(OHL、Obrascon Huarte Lain) (写真: Liesa Johannssen)
正式名称はレイ・ファン・カルロス病院。着工時は好景気にあったスペインの情勢は大きく変化し、本病院が竣工した2012年3月には経済危機の最中だった。ただし経済の活性には一役買い、雇用の促進になったという。施工者はスペインの建設会社、オブラスコン・ワルテ・ライン(OHL、Obrascon Huarte Lain) (写真: Liesa Johannssen)

マドリード州立の「モストレス病院」

 2012年に完成したモストレス病院は、延べ面積9万m2、260床の病院で、首都マドリード郊外のモストレス市に整備された。この病院は、市で最も大規模かつ最良の病院であるというだけでなく、スペイン国内で3事例目となる病院PFI(民間資金による社会資本整備)事業の1つとしても知られている。

 06年にマドリード州政府が、州立病院の建設を決めた際には、PFIという概念自体がスペインの建設業界の中では比較的新しく、かつ、過去数十年の間に、マドリード州での病院の新築もほとんど行われていなかった。新しい病院の需要はありつつも、州の予算は限られており、病院建設・運営を可能にする手法として、PFIに注目が集まった。

 本プロジェクトでは、医療サービスの運営までも民間に委託するかどうかの決断は、政治的な背景があったとのことで、その点では不興を買っているという話も聞こえる。

遠景。建物のデザインを構成する上での重要な要素である“円”が、屋上からはみ出し周辺や外構のデザインにも及んでいる。地上に置かれたヘリポートとも一致しているのが愛嬌だ(写真:Rafael de La-Hoz Arquitectos)
遠景。建物のデザインを構成する上での重要な要素である“円”が、屋上からはみ出し周辺や外構のデザインにも及んでいる。地上に置かれたヘリポートとも一致しているのが愛嬌だ(写真:Rafael de La-Hoz Arquitectos)

 医療サービスの提供と、施設の維持管理を担う民間医療機関、カピオ・サニダードは、出資銀行を探し、彼らの勧めによりアラップに協力を仰いだ。