建築にも隠れた見どころ

 武雄市には、こうした街づくりや観光振興のほかに、建築にも隠れた見どころがある。

 市内には、フランク・ロイド・ライトの愛弟子、遠藤新による太平洋戦争中の建物、如蘭塾(1943年・国の登録有形文化財)がある。満州で活躍した実業家、野中忠太が開設した、満州からの若い女性達の給費留学生を受け入れる日満育英会の施設である。塾舎と寄宿舎の2棟の建物をつなぐエントランス部にある大谷石積みの2本の親柱が、ライト風の意匠を思わせる。奥に位置する迎賓館も遠藤新の設計による。

如蘭塾の塾舎と寄宿舎のエントランス。ライト風の大谷石の親柱が目を引く(写真:村島 正彦)
如蘭塾の塾舎と寄宿舎のエントランス。ライト風の大谷石の親柱が目を引く(写真:村島 正彦)

如蘭塾の来歴を記した案内板(写真:村島 正彦)
如蘭塾の来歴を記した案内板(写真:村島 正彦)

如蘭塾迎賓館。こちらも国の登録有形文化財に指定されている(写真:村島 正彦)
如蘭塾迎賓館。こちらも国の登録有形文化財に指定されている(写真:村島 正彦)

 また、改修前の武雄市立図書館(1999年)の元設計は佐藤総合計画によるもので、集成材による大屋根をかけた弓形のダイナミックな空間構成が特徴だ。この特質は改修後も引き続き生かされており、見どころとなっている。

 さらに同じ佐藤総合計画が武雄市内に設計施工した佐賀県立宇宙科学館(1999年)がある。巨大な球体と空に突き出した巨大な矩形のマッスが宇宙基地を思わせ、ダイナミックな造形は見学に値する。

佐賀県立宇宙科学館。大階段からエントランス方向を望む(写真:村島 正彦)
佐賀県立宇宙科学館。大階段からエントランス方向を望む(写真:村島 正彦)

逆側からの建物全景。巨大な柱状の展示室が空中に突き出しているのは圧巻(写真:村島 正彦)
逆側からの建物全景。巨大な柱状の展示室が空中に突き出しているのは圧巻(写真:村島 正彦)

 また、武雄市フェイスブック・シティ課によると、さまざまな武雄市の取り組みについて、行政視察が引きも切らないという。2012年度の行政視察は、211団体、約7500名の実績だった。同課担当者によると「4月の武雄市図書館のリニューアルオープン後には、去年の2倍を超える行政視察の申し込みがある」と、その反響の大きさについて語る。

 樋渡市長による市行政の革新的な試みはもとより、11月に武雄温泉楼門の復元工事が完成すれば、武雄市への注目もなお一層高まることになるだろう。

武雄市役所正面玄関脇には、行政視察団体などの名前がずらりと並ぶ。市役所が対応する視察者については、市内に宿泊してもらうことをお願いしているという(写真:村島 正彦)
武雄市役所正面玄関脇には、行政視察団体などの名前がずらりと並ぶ。市役所が対応する視察者については、市内に宿泊してもらうことをお願いしているという(写真:村島 正彦)

武雄温泉楼門の概要

  • 大正4年(1915年)竣工
  • 2005年国指定重要文化財
  • 構造:木造
  • 平面積:184.2m2
  • 屋根面積:275.2m2
  • 両側面翼屋付き 本瓦ぶき及び桟瓦ぶき

保全修理工事の主な内容

  • 1)楼門屋根ふき替え:約120m2(屋根軽量化のため)
  • 2)塗装の塗り替え:外・内合わせて約900m2
  • 3)耐力壁の設置による耐震補強
  • 4)木部の修理
  • 5)袴腰と一部土壁の塗り替え

保全修理工事の概要

  • 指導:文化庁、佐賀県教育委員会、武雄市教育委員会文化振興課
  • 発注者:武雄温泉株式会社
  • 設計・監理:文化財建造物保存技術協会
  • 施工:清水建設
  • 工期:2013年1月~11月末(予定)