オーヴ・アラップの考える「仕事」
オーヴ・アラップは、「生きるために働く」という現実に対峙する時、「仕事それ自体を面白く、有意義なものにすべき」と考えていた。その方法は、「限りなき“質の追求”に邁進し、決して二流の結果に甘んじないこと」だ、と。この“質の追求”、すなわち“面白い仕事”が建築の一部に留まらず、全体へと波及するためには、「トータルデザイン」、言い換えれば他者との協力関係の中で適切な判断を下し、自身の勉強によって高みを目指すことが必要である、と言うのだ。
そして、鼓舞される彼の言葉――。「トータルデザインは現実には極めて難しいことですが、チャレンジしてみる価値は十分あります。最高の結果を得るために必要なものであり、また私たち自身もそこからもたらされる刺激を必要としているのです」
今日、トータルデザインというと、建築に携わる多様な専門家間の調整を取るという意味以上に、計画から廃棄までの建築のライフサイクルを見越した検討を意味するであろうし、広義に解釈すれば、建築が社会・経済・文化などを構成する要素の一部であり、単に協働する他者を超えた存在への影響も考慮すべき、という姿勢にも読める。
そうだ、富士山の話だった。世界文化遺産の選定基準には、「建築、科学技術(中略)の発展に重要な影響を与えた、ある期間、又はある文化圏内での価値観の交流を示していること」(注1)とある。価値観の交流…、正しくトータルデザインの極み。
参考文献
(1)『造景/1996年4月号』、建築資料研究社、1996年
(2)『山本学治建築論集(2)造型と構造と』、山本学治著、鹿島出版会、1980年