How to build?(どう施工するか)

 オーヴ・アラップの口癖でもあり、アラップ社内で引き継がれている信条の一つに、「How to build(どう施工するか)」がある。施工方法を考えていない設計などナンセンス。

 橋の建設で時間もコストもかかり、水上交通の妨げになるのは水中の仮設工事である。オーヴ・アラップは、橋の鉄筋コンクリートの構造体を半分ずつ川の両岸にて川と平行するようにつくった後、岸から回転させて川に渡し、橋桁の中心部を接合させる、というアイデアを出した。この工法であれば、水中の仮設足場を設けずに施工できる。現在では1つの工法として使われているが、当時は画期的な方法だった。

 もちろんこれが全ての橋の建設に適用できるわけではないが、川幅より土手間の幅が広く、構造体を回転させるスペースが確保できたこのケースにはふさわしいと言える。

川岸に仮設を作り、橋の一方の側を施工している様子(写真:Arup)
川岸に仮設を作り、橋の一方の側を施工している様子(写真:Arup)

 橋脚を回転させるということになると、根元の回転部分は剛接合でなければならない。一方、できる限りスレンダーな橋脚とするためには、軸力だけしか生じさせないことが必要となる。そのために頂点はピン接合として橋桁を支え、その姿は枝分かれしている松葉のようである。橋脚の断面形状は、座屈に強い形状とすることを最優先としつつエッジの効いた緊張感をも具えたい…。こうして根元部分から頂上までなめらかに変化する断面形状が生まれた。

橋脚の断面形状がなめらかに変化していることがわかる図面(資料:Arup)
橋脚の断面形状がなめらかに変化していることがわかる図面(資料:Arup)
背後に学生組合会館が見える(写真:Giles Rocholl Photography)
背後に学生組合会館が見える(写真:Giles Rocholl Photography)

 回転した橋桁は、シンプルなデザインの銅製のエキスパンション・ジョイントによって繋がれている。アルファベットの「U」と「T」に見えるが、これはUniversity(大学)とTown(町)を繋ぐ、というオーヴ・アラップ流のユーモアである。

 この橋は、オーヴ・アラップが目指した「トータルデザイン」を体現した作品として、自身も結果に満足していたという。

エキスパンション・ジョイント部分(写真:Giles Rocholl Photography)
エキスパンション・ジョイント部分(写真:Giles Rocholl Photography)
回転させるためにはそれぞれの基礎部分に軸受が必要であったが、使用するのは施工時の一度きりのため、必要な強度は満たしつつ、安価なものが採用された(写真:Arup)
回転させるためにはそれぞれの基礎部分に軸受が必要であったが、使用するのは施工時の一度きりのため、必要な強度は満たしつつ、安価なものが採用された(写真:Arup)