このフィラーが制震ゴムに求められる「堅さ」という性能にも大きく関与している。ゴムに堅さが要求されるというとちょっと意外な感じがするが、実はこの「堅さ」が二階建て木造住宅の制震に適していると、住宅の地震対策に詳しい信州大学の五十田博教授は言う。「鉄骨の構造に比べると、木造はふらふらしない。つまり、木造住宅は堅いのです」。力を加えたとき、曲がっても折れにくい鉄骨の構造物は「柔らかい」と考えられ、ある程度しか曲がらずに折れてしまう木の構造物は「堅い」と考えられる。

 「よって、『家の損傷や変形をできるだけ少なくしたい』と考えた場合、堅い木造建築物には、揺れの最初の段階から制震性能がよく効く材料を入れたい」(五十田教授)。したがって、制震材料にも適度な堅さが求められるわけだ。

 もうひとつの特徴である「変形性能」は文字通り、ゴムが水平方向に変形できる能力のこと。制震ダンパーに使われているゴムでは「ゴムがせん断(平行方向にずらすように力が作用)したとき、厚さ方向の5倍まで伸びても破断しないことを確認しています」と松本氏は胸を張る。「堅さと変形性能という相反するものを1つにまとめるのが、難しいポイントでした」という。

 この「堅さ」と「変形性能」の持続が、高減衰ゴムの長期耐久性を支えている。「橋梁の例でいうと、18年前に納入された制振ダンパーの一部を引き上げ、性能チェックしましたが、当社が想定した通りの範囲内での性能変化であることが実証できました」(松本氏)。

MIRAIEの高減衰ゴムは、変形の際の発熱の度合いが高い。発熱時は、発火温度までは達さない(常温+5℃の上昇)
MIRAIEの高減衰ゴムは、変形の際の発熱の度合いが高い。発熱時は、発火温度までは達さない(常温+5℃の上昇)

高機能なゴムが作られる工場に潜入

 この「高減衰ゴム」がどのようにして生み出されるのか。どのように制震ダンパーとして組み上げられるのか。製造現場を取材するために、住友ゴム工業ハイブリッド事業本部の加古川工場を訪ねた。

 現場を案内してくれた同工場生産技術課長の渕上哲也氏が、巨大なミキサーの前で言った。「まず最初は、天然ゴムとさまざまな薬剤などを混ぜる工程です。この配合のレジピが、ゴム会社にとっても最も重要なノウハウとなります」。

 「普通のゴム材の場合、混ぜ物は多くても2桁いきませんが、弊社の高減衰ゴムは、フィラーも含めて数十種類がブレンドされます」。同行する松本氏が説明を加えた。この「練り」の工程では一般的なゴムと比較して高減衰ゴムの場合はおよそ10倍以上も作業に時間がかかる。「投入するタイミングは何万通りもあり、そのタイミングの1つでも間違えると、このゴムになりません。素材を均一に混ぜ合わせる技術の難しさが、世界的に誰もコピーできない理由です」。

 こうして練り上がったゴム(練りゴム)は、「MIRAIE」の制震ダンパーに組み込まれる大きさにカットされる。

住友ゴム工業ハイブリッド事業本部加古川工場生産技術課長の渕上哲也氏。手に持っているのはMIRAIEの制震ダンパーの高減衰ゴムが装着される部分。「フランジ」と呼ばれ、鉄板には、接着剤(黒い部分)が塗布されている
住友ゴム工業ハイブリッド事業本部加古川工場生産技術課長の渕上哲也氏。手に持っているのはMIRAIEの制震ダンパーの高減衰ゴムが装着される部分。「フランジ」と呼ばれ、鉄板には、接着剤(黒い部分)が塗布されている
練り上がったゴムは平らに延ばされたあとカットされる
練り上がったゴムは平らに延ばされたあとカットされる