A~Eの定義

補修の必要性の度合い

A:指摘のみ

  • (1)雑な施工だが、建物の機能・性能上の問題はない
  • (2)美観上の問題のみ
    • (2)は塗装のみが剥がれた場合などで、補修するかは依頼者の判断次第
  • (3)使用者(居住者)の使い方の問題
  • (4)管理者の維持管理上の問題
    • (3)と(4)は、バルコニーの排水溝のゴミ詰まりや共用廊下の照明切れなど、居住者や管理組合(管理者)が日常の清掃や点検をきちんとしていれば済む

B:要経過観察

  • (1)兆候はあるが緊急の補修や詳細調査までは必要ない
    • 目地モルタルだけがひび割れ、構造上や防水上の問題はないケースなど
  • (2)想定定済みの経年劣化(検査時点の長期修繕計画で対応可能)
  • (3)所有者、居住者自身による日常の点検や応急補修で対応できる
    • (3)は住戸内の壁クロスの小さな傷や剥がれなど、長期修繕計画や大規模修繕工事に組み込む必要がないレベルであるという意味。ただし、症状の進行が早い場合は共用部分である躯体の構造や防水上の問題に起因している可能性もあるので、「要経過観察」としている。経過観察の結果症状の異常な進行がある場合は、CないしDに進む。

C:要補修

  • (1)(応急的でも)大規模修繕工事を待たずに補修すべき
    • 通常の補修は不具合や劣化の原因を建物検査で特定できた場合に行う。そうでないとすぐに再補修となる可能性があるからだ。ただし、原因特定に詳細調査(D)が必要になる場合には、その調査結果を待っていると症状が進行するのは明らかなので応急的な補修を行う方がよいケースもある。こうしたケースは「C、D」と表示した。このCのランク付けをした場合、同社の検査報告書では参考補修方法を示している。ここではその代表的な例の概要を一部で紹介している。

D:要詳細調査

  • (1)原因を特定しないと補修しても再補修を繰り返す恐れがある
    • 雨漏り(漏水)や結露、構造上主要な部分のひび割れなどが該当。目視中心の建物検査では、その現象を確認することはできても原因を特定できるとは限らない。漏水については水質検査でそれが雨水か水道水かを見分けたうえ、雨水の場合は浸入想定箇所に散水する漏水検査を行って浸入経路を特定する。
  • (2)構造上の問題がある
    • 躯体の柱や梁、耐力壁など構造上主要な部分に見逃すことのできない現象がある場合には、建設時の構造計算書が妥当なものであるかを診断する「構造計算書診断」を詳細調査と並行して行い、その結果問題があれば、耐震補強(E)を提案することになる。

E:要更新もしくは要補強・要改修

 初期の状態に戻す修繕や補修では間に合わず、別の対応が必要になるランク。
  • (1)更新が必要
    • 鉄部の腐食が進んで使用上危険な状態に陥った外部階段、早期劣化した屋上防水層、地震で破壊されたエキスパンションジョイント(構造的に独立した住棟同士の接合部。一方の棟だけに固定し、もう一方はフリーにする)など、補修では間に合わず、また日常の維持管理で点検・交換できるような部位ではないケースが該当する。
  • (2)補強ないし改修が必要
    • Dの詳細調査の結果を受けた耐震補強、建物の外壁全体に断熱材を増し張りする断熱改修など、長期修繕計画の見直しが前提となるケース。
  • (3)建て替えを検討したほうが経済的
    • 建物全体の機能回復が困難なレベルに達し、補強や改修工事を行うよりも建て替えるほうが経済合理性のある場合。維持管理を放棄したまま年数を経たマンションなどが該当するが、そうしたマンションでは管理組合が機能せず、資金調達も意思決定もできない状態に陥っていることが少なくない。

 詳細は日経アーキテクチュアが発行した「建築検査のプロが指摘する マンションの不具合・劣化 総覧」に掲載している。