「未来の建築家を育てる」

せんだいメディアテーク(写真:大橋富夫)
せんだいメディアテーク(写真:大橋富夫)
瞑想の森 市営斎場
瞑想の森 市営斎場
多摩美術大学図書館(写真:大橋富夫)
多摩美術大学図書館(写真:大橋富夫)
サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン
サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン

 モダン建築の限界に縛られることなく、むしろ建築の流動性を追求してきたと語る伊東氏は2000年、せんだいメディアテークでそれを見事に実現させた。床スラブをチューブによって支えるという構造により、内部に斬新な空間の広がりが生まれたのである。一方、台中メトロポリタン・オペラハウスでは、縦横に連続する空間のネットワークがコミュニケーションとコネクションをつくり出す。

 “グリッド”がもたらす堅苦しさから解き放たれるために伊東氏が追求するのは、関係性にほかならない。それは部屋と部屋の関係であり、内と外の関係であり、そして建築と周辺環境の関係でもある。伊東氏の作品は、自然の原理からインスピレーションを得ており、生命体のような構造と外観、表皮の間に確立した統一感に裏付けされている。

 伊東氏が請け負うプロジェクトは、その多くが公共施設の要素を伴うものである。公共施設の設計の場合、革新を追求するのはいかにも困難かつ危険ではあるが、決して諦めないのが伊東氏である。建築は物理的ニーズだけでなく、人の五感に応えるものであるべきだというのが彼の持論である。

 多くのプロジェクトのなかでも、06年に岐阜県に完成した「瞑想の森 市営斎場」、07年の多摩美術大学図書館、さらに02年に英国ロンドン市内にできたサーペンタイン・ギャラリー・パビリオンは、それぞれの建物内部で繰り広げられる人々の行動を熟知した伊東氏ならではの作品といえる。また、11年の東日本大震災で被災した人々のための小規模共同施設「みんなの家」は、伊東氏が考える建築家としての社会的責任を直接的に体現したプロジェクトである。

 未来の建築家を育てるための教育も、伊東氏の大きな関心事の1つである。教師の仕事を引き受けているのもその理由からであり、また大三島の伊東豊雄建築ミュージアム内にシルバーハットを再現し、ワークショップやリサーチに活用できるようにしたことも、教育への熱意を示すものであろう。もっと良い例は、若い建築家達が“登校”し、働きながら学んでいるさながら学校のような彼自身のオフィスである。

 革新を続け、建築の境界線を前に押し広げながら、伊東氏は後に続く若者たちに道を開いている。パイオニアとしての伊東氏は、彼自身の発見が周囲に利益をもたらすことを歓迎し、その発見を後輩や同僚たちが独自の方法で進化させられるように後押ししている。その意味で、伊東氏は酸素を消費するだけではなく、酸素を生成する存在である。

 伊東氏は普遍的な建造物のつくり手であると同時に、大胆な試みを続けながら前進する。彼の建築は楽観的であり、軽やかさと喜びにあふれ、個性と普遍性を併せ持つ。居心地の良さをつくり出す構造や空間、フォルムの統一感、ランドスケープの感性、魂のこもった設計デザイン、さらには個々の作品にいきわたる詩的な精神性。それら全ての要素を高く評価し、伊東氏を13年プリツカー賞の受賞者とする。