団地の1階がにぎわえば、団地空間はもっと魅力的になるはずだ。突破しなくてはならない壁はあるにせよ、実現すればもっと楽しい団地の風景が広がるだろう。東京R不動産による寄稿「団地復権」第3弾をお届けする。


 コミュニティーが生きている団地、活性化に向けて様々な取り組みを実践している団地は、実は少なくない。また、古い団地は、住棟の間隔が広く、そこに芝生が敷かれていたり木々が大きく育っていたりと、敷地内に半公共的な空間が出来上がっている。団地住民以外の人も気軽に通りがかる場所でもある。

 そんな団地の1階に、もっと便利で楽しく集まりやすい場所ができれば、人々のつながりはもっと広がるはずだ。

商業棟をアトリエに転用

 1階を活用している団地の一つに、茨城県取手市の取手井野団地(1969年竣工)がある。

 2007年12月に誕生した「井野アーティストヴィレッジ」(以下、IAV)は、団地の商業棟を一棟改修し、若い芸術家の活動拠点として再生した施設。全7戸のうち6戸は、それぞれ数人の作家が共同アトリエとしてシェアしている。残り1戸は管理部屋と、彼らの作品を展示するウインドーギャラリーとして利用している。

井野アーティストヴィレッジ(IAV)は取手市と東京芸術大学の共同事業。取手市によるとランニングコストは年間180万円程度だという(写真:ゆかい)
井野アーティストヴィレッジ(IAV)は取手市と東京芸術大学の共同事業。取手市によるとランニングコストは年間180万円程度だという(写真:ゆかい)

IAV前で開かれたイベントで披露された大巻伸治氏のシャボン玉を使った作品(写真:齋藤剛、取手アートプロジェクト)
IAV前で開かれたイベントで披露された大巻伸治氏のシャボン玉を使った作品(写真:齋藤剛、取手アートプロジェクト)

 専門会社の手が必要な部分を除き、基本は入居者たちによるセルフリノベーション。1階は天井の高い店舗スペースと倉庫、そこから階段を上がると住居スペースという昔ながらの商店建築は、アーティストにとって使い勝手のいいアトリエになった。

 翌2008年に、取手アートプロジェクト(TAP)のイベントが開催されたのをきっかけに、IAVもアトリエを公開し、自分たちの作品を展示。以来、このアトリエ公開は毎年行われ、入居作家と団地住民の交流の場にもなっている。

 その後、IAVの向かいにある商業棟(ここはまだ数店舗が営業中)に、団地内外のボランティアによるコミュニティーカフェ「いこいーの+Tappino」も誕生。団地でのアート企画も行うTAPの拠点として、また、団地住民だけでなく周辺の人々も気軽に集う場として機能している。長くこの団地に住み、ここのボランティアスタッフでもある彦坂三矢子さんは、IAVの作家やTAP関係者のことを、親しみを込めて「アートさん」と呼ぶ。